フレッシュマン講座

溶接材料編2011

 1、溶接材料の選定の方法
 最も身近な接合法である接着剤でも、木材用、プラスチック用、紙用、写真用、ゴム用など接着する材料に適した多くの種類があるように、溶接材料も溶接する材質すなわち母材に合わせて、最適なものを選定することが重要である。
 溶接が適用できる材料には、軟鋼、高張力鋼、低合金耐熱鋼、ステンレス鋼などの鉄鋼材料さらに、アルミニウム、チタンなど多くの種類がある。
 溶接金属を含む溶接部は基本的に母材と同等以上の性能が要求されまる。このため溶接材料は、母材に合わせてJISに整備されている。
 また、新しい鋼材が開発されるとそれに合う溶接材料が開発される。それを接合する溶接法、溶接材料がなければ、どんな優秀な鋼材でも構造材として使用できない。溶接材料の使用が一般的になると、JISとして規格化される。現在、溶接材料のJISは国際規格ISOとの整合性を図るため全面的な見直し作業が進められている。
 溶接材料を選定する前段階として、製作物の大きさ、板厚、溶接姿勢、溶接長さや工場の溶接設備などにより、溶接方法が決まる。各溶接方法に使用する溶接材料を選定するには、溶接する母材の強度、化学成分を鉄鋼のJISあるいは鋼材のミルシートなどにより、明確にすることが重要である。鋼材が分かれば、それに合わせて溶接材料の規格は容易に選定できる。
 しかしながら、溶接材料のJISは基本的な機械的性質、化学成分が分類規定されているだけで、多くの場合実際に発注、納入するのは溶接材料メーカーの銘柄名であることが多い。特に、軟鋼や490N/ミリ2級高張力鋼用溶接材料は同じ規格の同じ種類であっても多くの銘柄があり、また、その特徴に大きな違いがある。
 そこで各メーカーのカタログなどにより用途、特徴、使用上の注意点などを充分確認して選定することが重要となる。以下に一例として、神戸製鋼所の銘柄名をカギカッコ内にて紹介する。

 2、被覆アーク溶接棒の種類と使い方
 最も基本的な溶接法である被覆アーク溶接に用いられる溶接棒は、心線と呼ばれる鉄線の周りに原料粉末と固着剤としての水ガラスを混練、均一な厚さに塗布し乾燥して作られている。
 被覆アーク溶接棒には多くの種類があるが、大別すると低水素系とそのほかの系統に区分できる。
 低水素系溶接棒は、原料として炭酸石灰を多量に配合している。これがアーク熱で分解、炭酸ガスを発生し、アークを大気より保護し、溶接金属への窒素や酸素の侵入を防止する。(この作用を「シールドする」と言う)
 一方、そのほかの系統の溶接棒は、おもにでんぷんやセルロースといった有機物の分解ガスによりシールドする。この分解ガスには、溶接部の低温割れの原因となる水素を多く含む。低水素棒に配合されている炭酸石灰の分解温度は有機物と比べはるかに高いため、高温での乾燥が可能となり溶接部の低温割れの原因の一つである「拡散性水素量」を低く抑えることができる。
 しかしながら、分解温度が高いことはアークスタート時すぐには充分なシールドガスが発生せず、スタート部にブローホール(開口していない気孔欠陥)が出る危険がある。このため、後戻り法などのスタートの気孔欠陥防止対策を行う必要がある。
 低温割れの危険のないオーステナイト系ステンレス棒を除き、強度が高く溶接部の低温割れの危険のある高張力鋼、低合金耐熱鋼、低温用鋼などに用いられる溶接棒はこの低水素系となっている。低温割れの危険の少ない軟鋼の場合も板厚が20ミリを超える場合は低水素系の溶接棒を使用することが望ましい。
 軟鋼の被覆アーク溶接棒の代表的な種類の特徴は以下のとおりである。また、同一のJISの種類でも銘柄によりいろいろな特徴の違いがあり、溶接材料メーカーのカタログなどで確認することが重要となる。
 ◇ライムチタニア系E4303(旧JIS;D4303)
 被覆剤に高酸化チタンを約30%、炭酸石灰などの塩基性物質を約20%含んだ溶接棒で、日本で最も多く使用されている。耐ブローホール性以外は、イルミナイト系とほぼ同等の性能を有しており、溶け込みはイルミナイト系より浅くスラグは流動性に富み、スラグのはくり性も良好である。隅肉溶接でビードの伸びがよい「Z─44」と立向姿勢が特にやりやい「TB─24」などがある。
 ◇高酸化チタン系E4313(旧JIS;D4313)
 被覆剤に酸化チタンを約35%含んだ溶接棒で、主として使いやすさに重点をおいた溶接棒である。
 溶け込みが浅くスパッタが少なく、美しい光沢のあるビードが得られる。溶接金属の延性、じん性がほかの系統より劣るため、主として薄板の溶接に使用される。化粧盛に適した「B─33」、立向下進溶接のやりやすい「RB─26」などがある。
 ◇低水素系E4316(旧JIS;D4316)
 前述のように被覆材に有機物を含まず、高温乾燥により溶接金属中の水素量を低く抑えている。厚板や拘束の大きな溶接に適している。鉄粉を添加して能率を向上させた「LB─26」、全姿勢での溶接性に優れJIS評価試験用としても定評のある「LB─47」、片面溶接の1パス目に使用する裏波溶接用の「LB─52U」などがある。
 ◇イルミナイト系E4319(旧JIS;D4301)
 被覆剤中に約30%のイルミナイトという鉱物を含んだ溶接棒であり、日本で開発され広く使われている。アークはやや強く、溶け込みは深くスラグは流動性に富み、全姿勢で良好な作業性を有する。また、低水素系以外ではX線性能、耐割れ性は最も優れており、溶接作業性を重視した「B─10」、X線性能など性能を重視した「B─17」、中間的な「B─14」などがある。

 3、炭酸ガスアーク溶接用のフラッワイヤの使い方
 炭酸ガスアーク溶接に使用するワイヤは大きく分けて、ソリッドワイヤとフラックス入りワイヤの2種類がある。ソリッドワイヤは全体が金属だけでできているワイヤで、フラックス入りワイヤはフラックスを金属の皮で包み、心線の回りに被覆剤のある被覆アーク溶接棒とは、まったく逆の構成となる。被覆アーク溶接棒と同様、フラックスの配合をいろいろ変えることにより、特徴の異なるいろいろなワイヤを作ることができる。
 フラックス入りワイヤは、被覆アーク溶接棒と同様に多くの種類があるが、軟鋼・490N/ミリ2級高張力鋼用を大別するとJISZ3313 T49J0T1─1CA─U(旧JIS;YFW─C50DR)に分類されるルチール系とT49J0T15─0CAーU(旧JIS;YFW─C50DM)に分類されるメタル系の2つがある。
 ルチール系には、高電流での全姿勢溶接が可能な「DW─Z100」、水平隅肉溶接でビードの波のきれいな「DW─Z110」、立向き上進溶接がやりやすい「DW─100V」、大脚長の溶接が可能な「DW─50BF」などがある。
 メタル系には、薄板で溶け落ちのしにくい「MX─100T」、厚板で高能率の「MX─Z100」、さらに溶け込みを深くしたタイプの「MX─101」がある。また、JIS分類ではスラグ系である塗装された鋼板で穴の開きにくい「MX─Z200」、さらに使用範囲を薄板側に広げた「MX─Z210」がある。フラックス入りワイヤの選び方の目安を図1に示す。
 構造物の種類、板厚、姿勢、鋼板の表面状態など使用条件と要求性能により最も適したワイヤを選択することが、溶接部の健全性、溶接能率・コストの両面から重要である。

 図1 FSW選び方の目安

 4、銅めっきなしマグ溶接用ソリッドワイヤの特徴
 従来からマグ溶接用ソリッドワイヤには、通電性と送給性を確保するためには、銅めっきが必要なものと考えられていた。しかし、2000年頃開発されたメめっきなしワイヤ「SEワイヤ」は、銅めっきの代わりに特殊表面処理を施しそれまでにない送給の安定性とめっき屑によるトラブル解消を可能にした。
 これは、銅めっきワイヤは見た目つるつるで均一ち密な表面状態に見えるが、めっき表面を拡大して観察すると写真1のように鉄の地肌が見え銅のめっき層が完全に表面を覆ってはいない。
 この不連続な状態が、通電抵抗の変化を起こしアークの不安定の原因になる(図2参照)。また、銅めっきが送給ローラーやライナーに削られめっき屑としてチップに蓄積し、チップ融着の原因にもなる。
 特に低電流炭酸ガス溶接用の「SE─50T」(JISZ3312 YGW12)や混合ガス溶接用「SE─A50」(YGW16)はスパッタが少なく、適正条件範囲が広い点などが評価され、広く使用されている。

 写真1 銅めっきワイヤの表面

 図2 銅めっきワイヤとSEワイヤ

 5、溶接材料の取り扱いについての注意点
 溶接材料がそれぞれの性能を十分発揮するためには、その取り扱いや保管に注意しなければいけない点がある。まず被覆アーク溶接棒であるが、鉱物などの原料を水ガラスで固着させているので強い衝撃が加われば被覆剤が破損、脱落する。
 また、被覆剤は吸湿性があるので溶接前の乾燥が重要である。特に低水素系溶接棒では、「拡散性水素」が低いという性能を発揮するためには、必ず適正温度と時間での乾燥が必要となる。
 一方、必要以上の温度や時間で乾燥するとガス発生剤が分解し、性能を損なう危険がある。銘柄ごとに推奨乾燥条件が異なるので、各溶接材料メーカーカタログなどで確認することが重要である。
 炭酸ガスアーク溶接ワイヤを巻いているスプールは合成樹脂で作られている。衝撃に弱く、投げたり落としたりするとスプールが変形しワイヤが食い込んだり、スプールが割れ送給困難となる。運搬時取り扱いには十分な注意が必要である。
 溶接材料は、雨や雪などのかからない屋内に保管し、床に直に置くのではなく木製パレットの上に積み、湿気が高い場所や潮風などさびの発生しやすい場所は避ける。

 神鋼溶接サービス/溶接研修センター 信田誠一

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