フレッシュマン講座

炭酸ガス/マグ溶接編2011

 1、分類
 炭酸ガス・マグ溶接は溶接の中で被溶接材料(母材)を加熱し母材と溶加材を溶融させ、これを凝固させて接合する融接に分類され、アーク溶接の一種である。また、溶接部を大気から遮へいするために、シールドガスを使用するガスシールドアーク溶接の一種でもあり、電極自体が溶融しない非溶極式であるティグ溶接に対して溶極式に分類される。
 炭酸ガスアーク溶接とマグ溶接との違いは、シールドガスに使用する成分の違いである。JIS規格では、炭酸ガスアーク溶接を「炭酸ガスをシールドガスとして用いる」、マグ溶接を「炭酸ガス、アルゴンと炭酸ガスとの混合ガスなどの活性のシールドガスを用いる」と規定している。日本国内でマグ溶接用のシールドガスとしては、80%アルゴン/20%炭酸ガスの組み合わせが最も一般的である。

 2、原理
 図1に炭酸ガス・マグ溶接の原理を示す。コイル状に巻かれた細径(直径0・6〜1・6ミリ程度)のワイヤが送給ローラにより送給され、トーチのコンタクトチップで通電されてシールドガスの流れの中で母材との間にアークを発生し、そのアーク熱で母材とワイヤを連続的に溶融し接合する。
 アーク熱で溶けた溶融金属は非常に活性であり、シールドガスを用いずにアーク溶接を行うと、溶融金属が空気中の酸素や窒素と反応して酸化や窒化を引き起こす。高温の溶融金属は多量の酸素、窒素、水素などのガスを吸収するが、冷却・凝固の過程で溶接金属内部に残りピットやブローホールなどの気孔の原因となる。また、空気中の水分による水素が溶融金属へ進入し、溶接欠陥の原因となる。
 シールドガスに炭酸ガス(二酸化炭素)を用いる場合にはそのガス成分が酸素の供給源となるため、炭酸ガスアーク溶接やマグ溶接用の溶接ワイヤにはシリコンやマンガンのような脱酸元素が添加されている。

 図1炭酸ガス・マグ溶接の原理

 3、特徴
 炭酸ガスアーク溶接及びマグ溶接は、ともに細径ワイヤに比較的大電流を通電する高電流密度の溶接方法であるため、一般的に手溶接と呼ばれる被覆アーク溶接と比較して、▽連続溶接が可能でアークタイム率が高い▽溶込みが深い▽溶着効率が高い▽一種類のワイヤで適用できる板厚の範囲が広い▽溶接部の品質が優れている▽全姿勢溶接が可能▽トーチ操作の要領が簡単▽ロボットなどを用いた自動溶接に適する──といった数多くの特徴がある。
 炭酸ガスアーク溶接とマグ溶接の特徴については表1に示した。

 表1 炭酸ガスアーク溶接とマグ溶接の特徴

 4、シールドガス
 前記のように、シールドガスには100%炭酸ガスと80%アルゴンガス/20%炭酸ガスの混合ガスが多く用いられている。図2に溶融金属中の化学反応を示す。
 炭酸ガスは、高温のアーク熱にさらされると、式(1)に示すように、一酸化炭素と酸素に分解される。この一酸化炭素/酸素の雰囲気下で高温の溶融金属は式(2)の反応を起こすが、炭酸ガス・マグ溶接用のワイヤは酸素との結びつきが強いシリコンやマンガンなどの脱酸元素を含んでいるため、酸素は式(3)の反応によりマンガン/酸素やシリコン/酸素のスラグとして除去される。
 しかし、脱酸元素の量が不十分であると鋼中に含まれる炭素は鉄よりも酸素と結びつきやすいので式(4)の反応が生じ、一酸化炭素が気泡となって一部溶接金属に残り気孔となる。
 シールドガス中の炭酸ガスの割合が増すと、式(1)によって溶鋼中の酸素量が増加するが、シリコン、マンガンによって脱酸が強制的に行われビード表面にスラグとして付着するため、これら脱酸元素の溶接金属中への歩留まりが悪くなる。
 従って、炭酸ガスアーク溶接用のワイヤにはシリコン、マンガンが多く含まれている。このことから、80%アルゴンガス/20%炭酸ガスのマグ溶接用ワイヤを100%炭酸ガスのシールドガスで使用すると、強度を高めるためにも含まれているシリコンやマンガンの溶接金属中への歩留まりが低下し、所定の強度が得られなくなるので注意を要する。

 図2 溶融金属中の化学反応

 5、ワイヤ
 ガスシールドアーク溶接用ワイヤには、大別するとソリッドワイヤとフラックス入りワイヤがある。
 フラックス入りワイヤは用途に応じたフラックス材を中心に封入したワイヤであり、ソリッドワイヤと比較して高価であるものの、ビード外観の美しさや難姿勢溶接への適用、スパッタの少なさ、ソリッドワイヤより高能率といった長所がある。また、目的に応じて溶接金属の成分調整が可能であり、様々なワイヤが市販されている。表2にその代表的な断面形状と特徴を示す。
 ソリッドワイヤのJIS規格としてはJIS Z3312があり、代表的なものを表3に示す。従来のソリッドワイヤは防さび、潤滑、通電を高めるため表面に銅メッキ処理を施したものが主流であったが、人体に有害なヒュームの発生原因にもなっているため、銅メッキ処理を施さないワイヤも市販されてきている。
 ワイヤ径の選択は使用電流範囲によって行うのが基本であり、その使い分けを図3に示す。また、同一電流では細径ワイヤほど単位時間あたりのワイヤ溶融量が多く高能率であることも、ワイヤ径の選択では考慮すべきことである。

 表2 ソリッドワイヤとフラックス入りワイヤの特徴

 表3 ソリッドワイヤの分類

 図3 ワイヤ径と使用電流範囲

 6、溶接条件
 溶接条件の中で最も重要なものは、溶接電源で設定する溶接電流(ワイヤ送給量)とアーク電圧、および溶接速度(半自動溶接の場合は運棒速度)である。この3条件は相互に関連し、溶接結果を左右する重要な要素である。また、適正な溶接条件は使用するシールドガスやワイヤの種類、母材の材質や板厚、溶接姿勢、継手形状によっても異なる。良好な溶接結果を得るためには、これらを考慮した溶接条件の適切な設定が不可欠である。
 炭酸ガス・マグ溶接で使用される溶接電源のほとんどは、定電圧特性・定ワイヤ送給速度制御方式と呼ばれるもので、溶接電流の設定値を一定の値に固定するとワイヤの送給速度も一定の速度となる。この時、ワイヤ突出し長さを変化させると溶接電流は変化するが、ワイヤの送給速度は変化しない。つまり、送給されるワイヤの速度に応じ、そのワイヤを溶かすのに必要なだけの電流すなわち低速度送給であれば小電流が、高速度送給であれば大電流が流れる仕組みになっている。

 7、実施工の要点
 溶接結果に影響を与える因子は、前項で記した溶接条件のほかにも様々なものがある。その代表的な因子の一般的な傾向について図4に記したので参考にして欲しい。

 図4 溶接結果に及ぼす諸因子

 8、移行形態
 ワイヤ先端の溶融部が溶融池に移行する形態は、シールドガスの種類や溶接電流値によって変化する。炭酸ガスアーク溶接およびマグ溶接で見られる移行形態を図5に示す。
 炭酸ガスアーク溶接の低電流域では(a)の短絡移行、中電流域以上では(b)のグロビュール移行となる。(a)の短絡移行では、ワイヤ先端に形成された溶滴が溶融池へ接触して短絡する短絡期間と、それが開放されてアークが再点弧する期間とを1秒間に100回前後の周期で交互に繰返す。
 (b)のグロビュール移行は反発移行とも呼ばれ、ワイヤ先端にワイヤ径より大きい直径の溶滴が形成されてアークの反力によって押し上げられ、溶滴が不規則で不安定な挙動を示す移行形態である。この移行形態は、炭酸ガスの混合比率が30%程度以上の中電流域以上で見受けられる。
 また、マグ溶接の低電流域では炭酸ガスアーク溶接と同様に(a)の短絡移行、中電流域では(炭素)のグロビュール移行、高電流域では(d)のスプレー移行となる。
 この炭素のグロビュール移行はドロップ移行とも呼ばれ、反発移行と同様にワイヤ先端にワイヤ径より大きい直径の溶滴が形成されるものの、アークの反力が小さいため比較的安定した移行となりスパッタ発生量も少ない。(d)のスプレー移行では、ワイヤ先端に形成された溶滴が短絡することなく溶融池に移行するため、スパッタ発生量は大幅に減少する。

 図5溶滴の主な移行形態

 9、波形制御
 ガスシールドアーク溶接において問題となるスパッタの発生を溶接電源の波形制御によって低減させる手法の例を図6に示す。
 ◇短絡波形制御
 前述したように、溶融したワイヤ先端が溶融池に接触して短絡状態となり、そのワイヤ先端の溶融分が溶融池に移行してアークが再点弧することを交互に繰り返えす移行形態が短絡移行である。
 この短絡移行においてスパッタが発生するタイミングは、短絡する瞬間とアーク再点弧の瞬間が最も多く、次いで再点弧直後に発生する瞬間的な短絡の発生時である。
 前者のタイミングで溶接電流を急激に低下させ、アーク再点弧直後に急速に高めて適正アーク長を確保することで瞬間的な短絡も防止し、スパッタ発生量を大幅に低減させる制御を取り入れた溶接電源が当社の「YD─350GZ4」である。
 ◇パルスアーク溶接法
 マグ溶接では、スプレー移行と呼ばれる短絡現象を生じずに、ワイヤ先端からワイヤ径以下の直径で溶滴が離脱し、溶融池に移行するスパッタ発生量の少ない移行形態が存在する。この移行形態となる電流下限値を臨界電流と呼ぶ。
 パルスアーク溶接とは、この臨界電流以上のピーク電流とそれ以下のベース電流とを交互に繰り返えし出力することで、ワイヤ先端から1回のパルス出力につき1滴の溶滴を離脱させ、臨界電流以下の平均電流値でもスプレー移行を実現する溶接法である。
 このパルスアーク溶接法は、スパッタ発生量が少ないという長所がある半面、入熱量が大きくアンダーカットや溶落ちが発生しやすいという短所がある。このパルスアーク溶接法の課題に対し、1パルス周期毎に1回の短絡移行を交え、なおかつこの短絡移行時に短絡波形制御を取り入れることでスパッタ発生量と低入熱とを両立させたHDパルス溶接法を、当社溶接用ロボット「TAWERS」や溶接電源「YD─500GZ4」に搭載している。

 図6 スパッタ低減の手法

 10、おわりに
 「溶接」は金属の接合に欠かすことのできない接合方法である。国際規格IS酸素9000シリーズで、溶接は「その品質と性能を試験検査だけでは完全に検証することができない」特殊工程として定義されている。「溶接」の本来の目的である必要な強度を保った接合は、破壊して初めて品質の良否が判断できるといっても過言ではない。技・匠の技術の上に成立つこの接合方法こそ、日本が世界に誇りうる技術である。
 皆さんも諸先輩方の築き上げたこの技術の基に成立つ溶接業界に携わる一員として、そのような気概を持って日々の仕事に取組み、この技術をさらに進歩・発展させることで日本の「ものづくり」を世界へ発信していってほしい。

 パナソニック溶接システム/FAテクニカルセンター 佐藤 公哉

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