フレッシュマン講座

ティグ溶接編2011

 【はじめに】
 本稿ではこれから溶接業界に入られる皆様へ、ティグ溶接の基本的な原理、現象、機器、施工、安全について紹介する。
 
 【ティグ溶接とは】
 ティグ溶接は金属加工分野における冶金的接合方法の融接に分類されるものであり、図1に示すように電気エネルギーを利用したアーク溶接の非溶極式の中に分類される。
 ティグ溶接とは「Tungsten Inert Gas Arc Welding」の略で、「Tungsten Inert Gas」のそれぞれのアルファベットの頭文字を取り「TIG(ティグ)」と呼ばれ、電極にタングステン、シールドガスに不活性ガスを用いるアーク溶接法の1種である。
 一般にアルゴンガスが多用されることから、アルゴン溶接とも呼ばれる。ティグ溶接は、工業的に使用されるほとんどの金属や合金の接合が可能であることが、大きな特徴の一つである。

 図1 溶接方法の分類
 
 【ティグ溶接の原理】
 溶接の基本原理を模式的に表したものを図2に示す。図2に示すように、アルゴンガスやヘリウムガスなどの不活性ガスをシールドガスとしてノズル内から噴流させ、その雰囲気中で融点の高いタングステン電極と、接合したい被溶接金属(母材)との間にアークを発生させ、そのアークの熱により被溶接金属を溶融、接合する方法である。
 溶着金属が必要な場合には、溶加棒あるいはフィラワイヤと呼ばれる被溶接金属に合った金属棒を供給する。ティグ溶接は、不活性ガス気中で溶接するために、フラックスが不要でスラグ除去の必要はなく、ビード外観は極めて良好であり、溶接金属の清浄度が高く、一般にじん性、延性および耐食性が優れている。

 図2 ティグ溶接の基本原理
 
 【ティグ溶接機の構成】
 ティグ溶接機は、溶接電源、溶接トーチ、遠隔制御箱(リモコンボックス)、ケーブルホース類(母材側ケーブル・ガスホース類)、付属品(ガス流量調整器)などから構成される(図3)
 ◇溶接電源
 溶接電源には垂下特性または定電流特性を用いてアーク長が変化しても、溶接電流が変化しない特性を利用し、溶込み深さの変動や作業性の変化などを抑制させている。特にアーク長の変動による電流変化がより少ないことから、定電流特性電源が多用される傾向にある。また、ティグ溶接そのものが高品位な溶接を行えることから、溶接機の性能に求める要求も高く、高速、高機能化のデジタルインバータ制御電源が多用されつつある。
 ティグ溶接電源の出力は、被溶接金属の種類よって使い分けられている。炭素鋼・低合金鋼・ステンレス鋼・チタニウム・銅およびその合金などの溶接には、溶接トーチをマイナス側端子に、母材ケーブルをプラス側端子に接続する電極マイナス(EN)極性の直流出力が用いられている。
 アルミニウムやマグネシウムおよびそれらの合金などの溶接には、母材表面の高融点酸化皮膜を除去する作用(クリーニング作用)が得られる交流出力が用いられている。
 ◇溶接トーチ
 ティグ溶接トーチは、保持したタングステン電極に溶接電流を導くことによってアークを発生させるとともに、溶接部を大気から遮へいするシールドガスを供給するものであり、冷却方法によって水冷式と空冷式に大別される。
 一般に作業性のよさから小電流溶接には空冷式トーチが多用されるが、使用電流には制限があり定格電流は通常200アンペア程度以下である。トーチの十分な冷却が必要な大電流溶接には、溶接ケーブルおよびノズル部分を水冷することによって、トーチの耐熱性を向上させた水冷式トーチが使用される。
 水冷式トーチは主に大電流溶接に適用される。この場合の冷却に必要な冷却水を供給するために、水道水から直接供給する方式や冷却水循環装置を用いる方式があるが、一般的に冷却水循環装置を用いることが多い。
 ティグ溶接トーチは、アングル型と呼ばれるトーチ(空冷式および水冷式)が一般的であるが、それ以外に目的、用途に応じたフレキシブルトーチ(空冷式:トーチ先端とグリップ部の角度を自由に設定)や、小電流溶接用のペンシル形トーチ(空冷式)なども一部で使用されている。また、自動機・ロボットなどで使用することを目的としたストレート型トーチ(空冷式・水冷式)もある。
 ティグ溶接トーチの消耗部品には、タングステン電極、ノズル、コレット、コレットボディおよびキャップがある。コレットおよびコレットボディは、タングステン電極を保持するための重要部品であり、使用電極径に合ったものを使用しなければならない。
 ◇遠隔制御箱(リモコンボックス)
 溶接電源の出力を手元で調整するための必需品である。最近では、遠隔制御箱なしでも溶接電源パネルで調整が行えるダブルオペレーション方式もある。
 ◇ケーブルホース類
 ◇ガス流量調整器
 いずれも電気を供給するためのもの。ガスを供給、調整するための必需品である。

 図3 ティグ溶接機の構成

 【タングステン電極】
 ティグ溶接においてタングステン電極は、溶接結果に大きく影響をおよぼす重要な部品である。
 ◇タングステン電極と種類とその特性
 電極として用いられるタングステン電極は、「JIS Z 3233:イナートガスアーク溶接並びにプラズマ切断及び溶接用タングステン電極」としてJIS規格で規定されている。このJIS規格はISO 6848:1894に基づいて2001年に改正され、1963年に制定された旧JIS分類(A系列)とISO分類(B系列)を併記した二重規定となっている。
 しかし、我が国では図5に示す旧JIS分類(A系列)が主として用いられ、ISO分類(B系列)が用いられることは極めて少ない。また、電極を識別できるように識別色が電極の一方に塗られているので、混在しないようにしっかりと管理することが重要である。
 ◇タングステン電極径と適正電流範囲
 ティグ溶接の電極には、溶接電流に応じた適切な径のものを選定しなければならない。溶接電流が小さい場合に太径の電極を用いると電極の温度が十分に上昇しないため、アークはふらつき不安定なものとなる。反対に大電流溶接で細径の電極を使用すると、電極の異常消耗を生じる。使用する電流域に応じて適正な電極径を選択することが必要である(表1)
 ◇タングステン電極の先端加工形状
 タングステン電極の先端形状は、アークの集中性・溶込み形状・ビード外観などに大きく影響するため、先端部を適切な形状に加工することが重要であるが、適切な電極先端形状は溶接電流や極性によって異なる。
 直流電極マイナス(EN)極性の場合、250アンペア以下の電流域での標準的な先端角は30〜60度であるが、電流値が大きくなるほどこの角度は大きくしなければならない。250〜500アンペアの電流域では、先端部を尖らせてもアーク発生とほぼ同時に先端部の溶損が生じるため、はじめから先端部を少し扁平にしておくとよい。
 500アンペア以上の電流域および交流溶接では電極消耗が多いため、先端部形状を半球形に加工して用いることが多い。また、交流溶接はアークの集中性が比較的乏しく電極消耗も多いため、直流溶接の場合ほど先端形状に注意する必要はない。
 電極先端形状の加工には、一般に卓上グラインダーが多用されている。しかし均一な先端形状を得るには、専用のタングステン電極研磨機を用いることが望ましい。電極先端部を専用の砥石側面に押付けて回転させることによって、電極先端の均一な形状加工が行えるものであり、安全面からみても推奨したい。

 表1 電極の種類

 【シールドガスの種類】
 ティグ溶接に用いられるシールドガスは母材の材質によって制約され、その種類(組成)をむやみに選定することはできない。不活性ガスであるアルゴンは材質に対する制約がほとんどなく、軟鋼から非鉄金属まで広範囲な材質に適用できる。
 ヘリウムも材質に対する制約はほとんどないが、高価なガスであることから、軟鋼・低合金鋼・ステンレス鋼などの溶接に用いられることは少ない。また、非鉄金属などへの適用においても、ガスコスト低減などのためにアルゴンと混合して用いられることが多い。
 水素を含む混合ガスを適用できるのは、オーステナイト系ステンレス鋼とニッケル合金のみであり、その他の材料では溶接割れ(低温割れ)が生じやすくなるため使用できない。水素の混合比は通常10%程度であるが、場合により20%程度まで混合される場合もある。ヘリウムや水素をシールドガスに用いると、アルゴン単独の場合に比べ溶込みは大きく増加する。

 【溶接施工】
 ◇接施工の基本要因
 溶接施工上の基本要因として、溶接電流、アーク電圧(アーク長)、溶接速度の3つが挙げられ、これらは溶接施工基本3要因として溶接を行う上で非常に重要なものである。これらは、被溶接金属の種類、大きさ、接合部の形状などによって最初に決定するものであり、ティグ溶接に限らず全てのアーク溶接にも当てはまるものである。
 ◇溶接電流
 溶け込み深さを決める最大因子である。溶接速度によっても溶け込み深さは影響を受けるため、被溶接金属の溶融状態を見ながら決定する。また、溶け込み深さは溶接電流値のほかにアーク長や溶接姿勢、トーチ角度の影響も受けるのでこれらの管理も必要である。
 ◇アーク長(アーク電圧)
 ビードの幅と溶け込み深さに影響を与える因子であり、タングステン電極先端と被溶接金属間の距離を調整し、アークの広がり具合を決定する。ビード幅と溶け込み深さを均一にするには、アーク長を一定にすることが必要である。
 ◇溶接速度
 溶接電流と密接な関係があり、溶け込み深さを決める因子である。生産性向上、タクトタイム向上を考えて速度アップを図り、溶接電流を上げて溶接を行うケースがあるが、高い溶接電流ではそのアーク力も大きく溶融部分の金属が押し出され、アンダーカット(溶接止端部に生じる溝)やハンピングビード(連続したこぶ状のふぞろいなビード)を生じるため注意が必要である。

 【安全について】
 アーク溶接は、あらゆる産業・もの作りにおいて、金属の接合という手段の中で最も多く用いられる加工方法である。ティグ溶接は前述の通りアーク溶接の一種であり、電気エネルギーで高温のアークを発生させ金属を溶融接合する方法である。しかし、「電気を使用する」、「高温のアークを発生させる」ことで、さまざまな事故や災害が発生しやすい作業でもある。
 一般に溶接作業において発しやすい災害には次のものが挙げられる。?感電による災害?アーク光から発生する紫外線および赤外線による眼炎?高温のアーク・スラグ・溶融金属・スパッタなどによる火傷・火災・爆発?発生するヒューム・金属蒸気やガスによる災害?高圧ガス容器の取り扱い不備による爆発やガスの噴出による災害など。
 「安全第一」はどこの職場でもよく言われる言葉であり、その重要性は十分に認識されているはずであるが、現実には労働災害が起こっている。溶接作業での災害をなくし作業者の安全を確保するためには、アーク溶接作業の理解を深め、発生しやすい災害についてよく知ることが重要である。
 また、どのような法令や規格があるか知らなければならない。ここで関連する法令について一部紹介をする。関連する法令は、労働基準法、労働安全衛生法、労働安全衛生規則、電気関係法令、粉じん障害防止規則高圧ガスに係る法令、日本工業規格(JIS)などが挙げられる。
 アーク溶接作業は、労働安全衛生規則第36条で労働省令で定める「危険または有害な業務」として「アーク溶接機を用いて行う金属の溶接、溶断等の業務」が指定されており、特別教育の受講が義務付けられている。
 この特別教育は、労働安全衛生教育規定第4条で、学科教育および実技教育により行うものとして表2に示す科目、時間が定められ、学科教育(計11時間)、実技教育(計10時間)の合計21時間以上行うものとされている。
 従って溶接作業は誰でも行えるものではなく、必ず法令で定められた特別教育を受講した者が行えると認識することが重要である。この特別教育は、事業主または事業主に代わり各地の安全衛生団体(労働災害防止団体)、自治体の教育機関、メーカーなどで実施されている。
 これから溶接の世界に携わる方々には、アーク溶接作業は、危険な作業であると認識し、自身の災害防止だけでなく周辺に対しても災害をおよぼさず、安全作業を心がけていただくことを切に願う。

  表2 アーク溶接などに業務に係る特別教育

 ダイヘンテクノス/六甲FACSグループ 小椋 立夫

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