フレッシュマン講座

アーク溶接ロボット編2011

 アーク溶接作業の自動化設備において、現在アーク溶接ロボットはもっとも重要な装置のひとつとなっている。本稿では、アーク溶接ロボットの基礎知識の解説に合わせて、運用における注意点や最新の技術動向について説明する。
 1、アーク溶接ロボットの概要
 アーク溶接ロボットの概要を説明するために(図1、半自動アーク溶接機と比較したアーク溶接ロボットの構成要素)を示す。図1から見てとれるように、アーク溶接ロボットは半自動アーク溶接機を操り溶接作業を行う溶接作業者の代わりに、ロボット用にアレンジされた溶接機器を操り溶接作業を行う。
 アーク溶接機器を除いたアーク溶接ロボットの構成は、A・ロボットマニピュレータと、B・ロボットコントローラおよび、C・プログラミングペンダントに分割される。ロボットコントローラは、作業者の腕の代わりに溶接トーチを把持するロボットマニピュレータを制御し、溶接作業で言うところの運棒をおこなうと同時に、半自動溶接機では作業者によるトーチスイッチ、リモコン操作──に相当する制御を電気信号を介しておこなう。
 また、ロボットマニピュレータの運棒動作や運棒動作に同期した信号動作は、プログラミングペンダントによってあらかじめプログラミングしたものを繰り返しおこなう。

 図1 アーク溶接ロボットの構成要素(半自動アーク溶接との比較)

 2、アーク溶接ロボットの動作原理
 アーク溶接ロボットを含む産業用ロボットのロボットマニピュレータは、必要数のサーボモータ(通常6個)による関節と、各関節を連結するアームとで構成されている。このようなアーク溶接ロボット(図2、MOTOMANーMH6)に代表されるロボットマニピュレータの構造は、垂直多間接ロボットと呼ばれる。
 垂直多関節ロボットは、その構造上CNC(数値制御)工作機械のように、空間上のXYZの位置データのみではロボットマニピュレータが動作する姿勢を想像することが困難であるため、CNCによる運用には不向きである。
 また、宇宙飛行士がミッションで使用するロボットアームのように、リモートコントロールによる操作だけでは、繰り返し動作による自動生産設備としての能力を発揮することができない。そのため、垂直多関節ロボットではCNCとリモートコントロールの長所を合わせ持つ、ティーチングプレイバック方式による運用が一般的である。
 ティーチングプレイバック方式とは、プログラミングペンダント(図3)操作により、ロボットマニピュレータをリモート操作し、実際に動作する点へ移動させサーボモータの回転位置を登録するティーチング操作と、ティーチングによって登録した点と点をつなぐ動作方法や、アーク溶接に必要な信号のタイミングなどを登録したジョブ(図4、ジョブプログラムの例)と呼ばれるプログラムを再生し、アーク溶接作業をおこなうプレイバック操作を組み合わせた方式である。

 図2 MOTOMANーMH6

 図3 プログラミングペンダント

 図4 ジョブプログラムの例

 3、アーク溶接ロボットの特徴
 アーク溶接ロボットの特徴を説明した上で、アーク溶接ロボットを溶接作業に用いるメリットとデメリットについて解説する。
 アーク溶接ロボットは、前述のように説明したとおりティーチングした動作を繰り返しプレイバック動作する。その繰り返し動作の精度は位置繰り返し精度と呼ばれ、プラスマイナス0・1ミリを下回る。また、ティーチングした点と点を結ぶ直線動作の直線性や指定した速度でトーチを動作させる際の等速性なども、フリーハンドでトーチを操作する人間の動作とは比べようもなく高精度かつ安定している。
 そのため、アーク溶接ロボットを使用した溶接作業では次のようなメリットが生まれる。
 ◇高品質(品質安定)
 アーク溶接ロボットは、ティーチングで教えられたとおりの動作を高精度に繰り返すことができるため、常に安定した運棒を行うことで溶接品質を安定させることができる。
 ただし、高品質を得るには運棒動作を教えるティーチングや溶接条件の設定が重要なポイントになるので、アーク溶接を十分理解した溶接経験のある技術者によるティーチング、もしくは監修が必要であることは忘れてはならない。
 ◇高生産性(高速度)
 アーク溶接ロボットは直線性、等速性が高いため、人間では困難な速度での運棒が可能である。一般的に半自動溶接機を用いた人手作業の溶接速度は毎分30〜50センチであるが、ロボット用の溶接電源を使用したアーク溶接ロボットは毎分60センチ以上、状況によっては毎分200センチの溶接速度を実現することも可能である。
 半面、ティーチングされたとおりにプレイバックすることが前提のアーク溶接ロボットには、熟練の溶接作業者のように溶接状態を目で確認しながら運棒を調整することができない。そのため、アーク溶接ロボットを使用した溶接作業では次のようなデメリットが生まれる。
 ◇ばらつき対応
 溶接対象ワークのセット位置や板間のすきま状態にばらつきがある場合には、溶接品質を確保することができない。
 ◇一品対応
 一つの溶接作業には必ずひとつのティーチングが必要であるため、溶接対象のワークをひとつしか製作しない場合はプレイバックによる繰り返し生産がないため、作業効率が低下する。

 4、アーク溶接ロボット運用の基本
 アーク溶接ロボットを使用して溶接作業をおこなう場合、アーク溶接ロボットのメリット・デメリットを理解した上でメリットを引き出した運用を心がける必要があり、次の3項目が基本原則となる。
 アーク溶接ロボットで溶接作業をおこなう場合、「同じ位置におかれた同じワーク」を「同じ位置を動作するロボット」で「同じ出力の溶接」をおこなう。
 具体的な運営としては、ワークに関して=ワークセット治具でのワークセットばらつき、ワーク単品でのばらつきを最小限に抑える。
 ロボットに関して=ロボットが把持した溶接トーチの曲がりなどで溶接位置ずれが発生しないように、チェック位置などを設け管理する。
 一般的にワーク、ロボットのばらつきの合成が、使用する溶接ワイヤ径の2分の1以内となることを目標に管理されていることが多い。
 溶接出力に関して=ワイヤ送給経路の摩擦抵抗やシールドガスの漏れ、給電チップの磨耗などで、溶接の出力が変動していないか溶接出力を監視し管理する。特に給電チップの交換は、あらかじめ交換周期をつかみ決めた周期で交換するように管理する必要がある。
 良好な溶接品質(外観、破壊検査などにより確認)を得ることができるジョブプログラムをティーチングによって作りあげた後は、このような基本原則を守ることでアーク溶接ロボットは安定した溶接品質を維持することができる。

 5、アーク溶接ロボットに対する安全措置
 アーク溶接ロボットを設置する場合、労働安全衛生規則第150条の中で「産業用ロボットの自動運転中は、マニプレータなどに接触する危険があるため、労働者が近づけないように、柵または、囲いを設けるなどの措置を講ずべきこと」とあるように、ロボットの動作範囲を囲う安全柵を設置する必要がある。
 加えて、遮光や防塵保護具などに関する安全衛生措置は、アーク溶接電源の周辺法令に準拠する必要がある。
 また、ロボットティーチングをおこなうためには、ロボットメーカ等で実施している講習会を受講し、終了資格を得ることが必要である。当該の講習会では、ロボットティーチングの技能習得だけではなく、ロボットの操作、運転に関する安全教育も含まれているので参考にされたい。

 6、最近のアーク溶接ロボット事情
 アーク溶接ロボットは、1970年代から日本で販売されているが、当初は一般産業用ロボットのアーク溶接作業への流用に過ぎなかった。近年、アーク溶接ロボットはその名の通りアーク溶接に必要なさまざまな性能を身につけ、めざましい進化を遂げているのでここに紹介したい。
 ◇ロボットマニピュレータ
 ロボットマニピュレータは、溶接品質を得るのに重要な運棒動作をおこなう。位置繰り返し精度や直線性、定速性を既に有している産業用ロボットにとって、最適な溶接トーチの角度を実現できる性能こそが、アーク溶接のために特別に必要な性能である。
 最近では、溶接トーチに連なるケーブル類をロボットマニピュレータのアーム内に内蔵することで、ケーブルとアームの干渉がトーチ姿勢調整の妨げとならないアーク溶接最適化ロボットが主流となっている。
 さらに、通常6軸であるサーボモータによる関節軸を7軸にして、ロボットマニピュレータの姿勢に冗長性を持たせることで、ワークや周辺治具との干渉回避性能を持たせた7軸アーク溶接ロボットも登場した(図5、7軸アーク溶接ロボットMOTOMANーVA1400)
 ◇ロボットコントローラ
 ロボットコントローラは、近年多軸制御化の発展をとげ、最新のコントローラでは1台のロボットコントローラで最大72軸のサーボモータ(マニピュレータは最大8台)を同時に制御することができる、一定のスペースにより密集してロボットを設置しても、ロボット同士を衝突なしに制御することができ、溶接ワークを回転させることで常に溶接に最適なワーク姿勢を作り出すための多種多様なポジショナ(図6、アーク溶接用ポジショナMOTOPOSシリーズ)との協調制御も可能である。
 ◇ロボット溶接用アーク溶接電源
 アーク溶接ロボットが世に出て30年余。高速で正確なロボットの動作特性に追従するように、アーク溶接電源の進化もめざましい。特に2005年以降、溶接電源メーカー各社より、デジタル制御による高機能な溶接電源が続々と発表されて、ロボット溶接ならではの高速、精密、高難易度の溶接が可能となった。
 ロボットコントローラとの結合においても、イーサーネットやデバイスネットなどの高速通信によるインターフェースが完備されつつあり、世界中の溶接電源メーカーとロボットメーカーの機器同士で、親和性を持った結合が可能な時代がせまりつつある。(図7、イーサネットによる溶接電源とロボットコントローラの接続I/F画面例)

 図5 7軸アーク溶接ロボットMOTOMANーVA1400

 図6 アーク溶接用ポジショナMOTOPOSシリーズ

 図7 イーサネットによる溶接電源とロボットコントローラの接続I/F画面例


 安川電機/ロボット事業部産業用ロボット技術部技術第2課課長補佐 西村公徳

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