フレッシュマン講座

中・厚板溶接編2011

 1、中・厚板について
 現在、我々の周りには様々な形をした「鉄」が存在している。その中で、板の形で圧延された鋼は「鋼板」と呼ばれ、中・厚板とはこの鋼板を板厚別に区分した呼び名である。厳密に規定はされていないが、一般的に3・2ミリを超えて25ミリ以下を中板、25ミリを超えるものを厚板と呼ぶことが多い。
 この中・厚板は工業分野に広く利用されており、主な利用分野としては造船、橋梁、建築、産業機械、各種プラント設備が挙げられ、目をみはるような大きな構造物に利用されるという特徴がある。これらは、単一の板厚で構成されることは非常にまれなケースであり、様々な板厚により構成され機械的接合法(リベット、ボルト・ナット)や冶金的接合法である溶融溶接によって組み立てられている。
 半面、薄板は自動車や住宅用の軽量鉄骨、家庭器具など、我々の身近に使われるものが多い特徴がある。これらに挙げた薄板、中板、厚板いずれも、それぞれの使用目的や用途に応じて選択できるように、鋼板の性能を示す強度、靱性、化学成分などが規格化されている。
 これら規格について、もう少し詳しく示す。
 中・厚板の種類としては、その使用用途(建築用、造船用、橋梁用など)、品質(強度、靱性、化学成分)、製造方法(熱処理など)に応じて大変多くの種類が存在し、今後も鋼板の製造技術の進歩、構造物の多様化、設計や施工技術の進歩により、様々な種類の鋼板が生まれてくると思われる。
 この鋼材の規格としては、この様に国内外を含めて多種多様だが、各産業分野において指定された規格材を選択することが基本である。
 日本国内では代表的な規格として、日本工業規格(JIS)があり、造船部門では、日本海事協会(NK)などの各種船級規格材がある。一般的に使用頻度の多いJIS規格材としては、主に引張強さが400〜590メガパスカルクラスの軟鋼・高張力鋼が各種溶接構造物に使用されている。
 その種類として、SS材(一般構造物用)、SM材(溶接構造物用)、SN材(建築構造用)、SMA材(溶接構造用耐候性材)が代表的な鋼種として挙げられ、それぞれ呼び名の後に引張強さを表す数字や、特性を表す記号が記載されている(例・SM490)。
 最近では鋼種により降伏強度を示す数字が用いられることがあるので、鋼板選択の際は注意が必要である。前述の溶接構造物に使用される鋼種は、一概に「溶接性が良い」とされ、溶接を考慮した鋼材の設計となっている。
 しかし、S××C(機械構造用)などに示される中・高炭素鋼(例・S45C)は「難溶接材」と呼ばれ、溶接の際には予熱を行うなどの施工条件に注意が必要である。
 建築構造用であるSN鋼では、例えばSN490Cと示されるように末尾に「C」が付くものがある。これは、鋼材に含まれる不純物元素である硫黄の含有量を0・008%以下と厳しく制限したものであり、非金属介在物が起点となり発生する溶接欠陥のラメアテア(十字継手、T継手、角継手などの板厚方向に引張応力を受ける溶接継手で鋼板表面に平行な割れが発生する現象)を防止する狙いがある。
 また、最近JIS規格化された高性能鋼として橋梁用高降伏点鋼板SBHS500やSBHS700などがあり、従来の同クラスの鋼より降伏強度が高く、かつ予熱不要や予熱温度が低減されるなどの特徴を有する。同様に建築用でも様々な種類の高降伏点鋼が開発され実用化されている。

 2、鋼材の溶接性について
 溶接性とは「鋼材(=母材とも呼ばれる)の材質が溶接に適しているか」の程度を示している。例えば、溶接の際に予熱が不要または予熱温度が下げられることや、溶接部近傍の熱影響を受けた部分(HAZと呼ばれる)でも性能の劣化が少ないものを溶接性がよいと言われる。
 逆に溶接性が悪いとはどういうことか。例えば、一般的に強度の高い高強度鋼板の厚板はその性能を持たせるために軟鋼よりも多くの化学成分が含まれているが、これを溶接すると鋼の性質上、急熱急冷の影響を受けた部分が硬化する現象がみられるが、この度合いは鋼材の化学成分により左右される。
 この硬化の影響により延性、靱性の低下が起こり、母材または溶接金属に割れ(低温割れ、遅れ割れとも呼ばれる)が発生することがある。これは一般的に硬さと、その構造物の拘束力と、溶接金属中の拡散性水素量の三つが重なった場合に発生するもので、溶接直後は割れがなくても、溶接後数時間が経過した後でも発生する恐れがある。
 硬化の度合いを判断する指標の一つとして、化学成分の値から割れ感受性組成(Pcm)として評価することができる。すなわち鋼材の高強度化はPcmが高くなり、溶接性が悪くなってくると言うことができる。
 しかしながら、船舶や建築鉄骨においては、「TMCP鋼」と呼ばれる鋼材があり、「熱加工制御法」と呼ばれる高度な圧延技術によって少ない合金成分(Pcmが低い)でも強度、靱性、溶接性を両立させた大変優れたものであり、予熱無しでの施工や高能率化が可能となっている。
 この様に多種多様な鋼材があるので、規格書やミルシートなどをよく確認し、その性質や溶接性を確認しておくことが重要である。

 3、中・厚板溶接の特徴について
 組立て精度に対して裕度があり、接合の信頼性が高いことから溶接は広く利用されているが、中・厚板を用いて重要構造物を製作するときは鋼材や溶接材料の選定を始め、施工方法や検査方法を決めなければならない。
 実施工に関しては、薄板では開先を取らずに鋼板同士を突合せた形や重ね合せた形でのシングルパス溶接の適用が多いが、中・厚板では通常マルチパス(多層)での溶接が一般的であり、当然ながら破損事故防止のために内部品質が重視されている。
 写真1にシングルパス溶接の断面写真、写真2にマルチパス溶接の断面写真を示す。溶接法別では一般的に、被覆アーク、ガスシールドアーク、サブマージアークと呼ばれる溶接法が適用され、アーク熱により溶融された溶接材料を開先と呼ばれる溝に溶かし込み、母材を同時に溶融させ固まることで鋼材同士をつなぎ合わせている。
 アーク溶接以外ではエレクトロスラグ溶接と呼ばれる方法もあり、建築用ボックス柱の製造に用いられる。市販の溶接材料は主にこれら溶接法に用いられ、溶接欠陥がない健全性と引張強さ、靱性などの機械的性質、また溶接のやりやすさが材料選択のポイントとなる。
 図1に溶接継手の断面写真と模式図を示す。溶接金属は鋳造組織からなるが、その材料設計により延性、靱性を持たせている。しかし、溶接した近傍の母材では高温に曝されるので、元来の圧延組織が消滅し粗大組織となる。この粗大化の程度は溶接部に与えた熱量(入熱)と共に増加する。
 軟鋼などでは引張強さや靱性が低下することがあるので、許容範囲を超えた過大な入熱で溶接を行うと、所定の性能が得られなくなる恐れがあるので注意が必要である。
 しかしながら現在ではこの様な問題に対し、結晶粒の粗大化を微細な酸化物で抑制する微細化技術を活用した鋼材が開発されている。最近では建築向けにHAZ靱性改善を図った「高HAZ靱性鋼」と呼ばれる大入熱対応の鋼板と、これに適応した溶接材料が実用化されている。
 さらに溶接では歪みや残留応力を伴うため、中・厚板溶接では思いがけない脆性破壊が生じる恐れがある。従って、特に材質や溶接施工条件には十分な注意が必要である。

 写真1 シングルパス溶接の一例


 写真2 マルチパス溶接の一例


 図1 溶接継手の断面組織(上)と模式図(下)

 4、中・厚板向け溶接材料について
 各分野で溶接材料の主流となっているのは、ガスシールドアーク溶接材料(ソリッドワイヤ、フラックス入りワイヤなどのマグ溶接ワイヤ)と思われる。また、サブマージアーク溶接材料および被覆アーク溶接棒が使用されているが、最近では溶接の高能率化、自動化が進むにつれてマグ溶接ワイヤが普及し、溶接棒の需要は減少しつつある。表1に各溶接法の適用性を示す。
 ◇ソリッドワイヤ
 シールドガスによって炭酸ガス用と混合ガス用に大別される。主に建築鉄骨での需要が多く、能率を重視した、大電流・炭酸ガス用のJIS規格YGW11対応の「YMー26」や、高入熱・高パス間温度対応のYGW18「YMー55C」などのチタン入りワイヤが主流である。
 ◇フラックス入りワイヤ
 ビード外観が良く姿勢溶接性が優れていることから、造船や橋梁で多用されている。ワイヤの断面形状から、継ぎ目のない「シームレスタイプ」、継ぎ目のある「かしめタイプ」があり、シームレスタイプには、耐吸湿性に優れ、拡散性水素量を非常に低く抑えることができる特徴がある。
 また、ワイヤ中のフラックスのタイプで使用用途が異なり、主な種類としては全姿勢溶接用にはチタニヤ系(シームレスタイプのSFー1、かしめタイプのFCー1)、造船分野で用いられるプライマー塗装鋼板には耐ピット性に優れたすみ肉専用のメタル系ワイヤ(シームレスタイプのSMー1F、かしめタイプのFCMー1F)が適している。
 ◇サブマージアーク溶接材料
 太径ワイヤや多電極を用いた大電流での溶接で、専用の装置が必要となるが最も高能率な溶接が可能である。優れた溶接品質が得られることから、厚板の突合せやすみ肉溶接に適用され、圧力容器、建築・橋梁分野で使用される。
 フラックスには、溶融型(例:YFー15)とボンド型(例:Nー55E)があり、ボンド型はフラックスから合金成分を加えることができるので、高張力鋼や合金鋼の溶接に適している。
 最近では、さらなる高能率化と溶接金属の高靱化の要求に応えるべく、高速度の溶接条件においても優れた機械性能、ビード形状および溶接作業性を得るために、シームレスフラックス入りワイヤおよび2ワイヤ1電極方式によるツインアーク溶接法を適用し、高速高能率で優れた溶接金属の機械性能が得られるSFー47EC×NFー360が開発されている。
 参考までに写真3にツインアーク溶接機の外観、図2にSFー47ECとソリッドワイヤの溶着速度の比較を示す。
 ◇被覆アーク溶接棒
 最も多くの鋼種に対応した溶接材料である。厚板や高張力鋼の仮付、本溶接には、割れ防止や性能確保の点から低水素系の溶接棒(例:Lー55、仮付用TWー50)が用いられる。
 ◇立向自動溶接法
 専用の高能率溶接法として、鉄粉を多く含有させたフラックス入りワイヤを用いたエレクトロガスアーク溶接(エレガス溶接)や、溶融スラグの抵抗熱を利用したエレクトロスラグ溶接(エレスラ溶接)が造船、建築鉄骨、タンクなどで用いられている。


 
 表1 主な溶接法の適用性一覧

 写真3 ツインアーク溶接機

 図2 SFー47ECとソリッドワイヤの溶着速度比較


 5、おわりに
 普通鋼を中心に説明しているが、ほかにはステンレス鋼、高合金鋼、非鉄金属など溶接は非常に多くの種類があるので、様々な溶接の専門書も参考にされたい。

 日鐵住金溶接工業/品質管理部技術サービスグループ 高橋 将

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