フレッシュマン講座

固体レーザ加工編2011

 1、はじめに
 昨年(2010年)はレーザが発明されてから50年の節目にあたり、レーザー学会をはじめ関連業界で様々なイベントが行なわれた。この50年のレーザ技術の進歩は目覚しく、身の回りの機器や産業用装置など多岐にわたる分野に使用されるようになった。特に、近年固体レーザの高出力化が急速に進むに伴い、産業分野におけるレーザ技術の適用分野も広がっている。本稿では固体レーザに関して基本的な原理や加工技術などについて解説する。

 2、レーザとは
 レーザ(Laser)は「Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation」の頭文字で、「放射の誘導放出による光の増幅」という意味。干渉性、単色性、指向性、集光性のよさに特徴がある。レーザ発振原理の詳細は別の機会に譲ることとし、本稿では固体レーザを使用した加工に焦点を当てて述べる。

 3、レーザの種類
 レーザはレーザ媒質によりいくつかに分類、一般的には固体レーザ、半導体レーザ、ガスレーザ、金属蒸気レーザ、化学レーザ、液体レーザ、自由電子レーザなどに分類される。本稿では半導体レーザを固体レーザの一つとして扱うこととする。

 4、固体レーザの種類
 固体レーザは文字通りレーザ媒質が固体のものを言う。レーザ発振する物質を透明な結晶や非晶質の母体材料にドーピングし作られる。初めて発振に成功したルビー(Al2O3)を始め、YAG(Y3Al3O12 =Yttrium Aluminum Garnet)、ガラス、セラミックス、YLF、YVO4、YAlO3など各種母体材料が開発され用途によって使い分けられる。
 また、固体レーザは母体材料の違いのほか、母体材料の形状の違いにより分類されている。現在使用されている主要なレーザとして、ロッド型、ディスク型、ファイバ、半導体が挙げられる。これら4種類の発振形態を図1に示す。
 ロッド型レーザは、初期の固体レーザから使用されているタイプで直径数ミリ、長さ100ミリ前後の棒(ロッド)状の結晶を使用。このロッド状のレーザ媒質の周囲にランプや半導体レーザなどの励起光源を配置し、周囲を純水で冷却する。
 ディスク型は、直径数ミリ、厚さ0・2ミリ程度の円盤(ディスク)状のレーザ媒質を使用し、ディスク裏面に励起光の反射ミラーと冷却用のヒートシンクを設ける。ディスクに照射された励起光は吸収効率を上げるため、複数回の多重反射する構造となる。
 ファイバレーザは、タイプの異なるキャビティ構造のものが開発、励起光の導入方法も数種類考案されている。高出力のものは、ダブルクラッドと呼ばれる二重構造をしたYb(Ytterbium)ファイバを用い、ミラーの代わりにブラッググレーティングを用いたものが多い。
 半導体レーザは、半導体中で光の誘導放出による増幅現象を起こし発振させ、端面からレーザを出射させる。共振器を半導体基板と平行に作り込み、へき開した側面から光が出射する構造や、共振器を半導体基板と垂直に作り込み面発光させる構造のものがある。
 以上の4種類のレーザは、それぞれのキャビティ(共振器)の構造や冷却方法の違いから、レーザの発振効率やビーム品質に差が生じる。
 ロッド型レーザは励起光による加熱と周囲からの冷却により、ロッド中心部が熱く外周部が冷たい温度分布が生じる。この温度分布により、中心部と外周部の媒質の密度および屈折率が変化し、レンズ作用が生じるためビーム品質の悪化を招き、ビーム品質の向上には限界があった。
 ディスクレーザは薄い円盤状の媒質を裏面から冷却するため、均一な温度分となり熱レンズ効果は大幅に低減し、高ビーム品質なレーザ発振が可能である。ファーバレーザはファイバが非常に細いため周囲からの冷却がよく、熱レンズ効果が少なく高ビーム品質なレーザ発振が可能である。
 半導体レーザは面放出のためある一定の広がりがあり、現時点ではビーム品質には限界がある。しかしながら、近年改善されてきており、ロッド型レーザと同等レベルのビーム品質になってきている。

 図1 固体レーザの発振形態

 5、ビーム品質
 一般的にレーザの品質の良し悪しを見る尺度としてBPP(Beam Parameter
Product)あるいはM2(エムスクウェア)などが用いられる。
 BPPはビームが集束したビームウェストの半径と、そこからのビームの広がり角(半角)の積(mm・mrad)で表し数値が小さいほど品質のよいレーザとなる。
 M2は理想的なガウスモードのレーザからのズレ量の比で、同じウエストサイズを持つ理論的なビームの広がりθに対する実際の広がりの比を示し、理想値は1である。
 図2にディスクレーザ、ファイバレーザ、半導体レーザのビーム品質の違いを示す。従来のロッド型レーザはほぼ半導体レーザと同等である。
 BPPの定義から明らかであるが、BPPが小さいほどレーザは細く集束することが可能で、より細いファイバに導入できる。例えば「BPP=30mm・mrad」の半導体レーザはコア径0・6ミリのファイバにしか導入できないが、「BPP=2mm・mrad」のディスクレーザはコア径0・05ミリのファイバにレーザを導入できる。BPPの定義から、BPPが小さいほどレーザの拡がり角が小さく、遠くに集束できることもわかる。

 図2 固体レーザのビーム品質

 6、レーザ溶接
 レーザを金属に照射すると金属に光が吸収され熱に変わる。この熱を利用して溶接するのがレーザ溶接である。レーザの強さにより金属の溶融状態が変わる。
 図3に示すように、レーザが弱いうちは表面が暖まる程度で金属は溶融しないが、レーザを強くしていくと金属が溶けはじめる。金属表面に照射されたレーザの熱が熱伝導で伝わり、その熱で金属が溶融し溶接する方法を熱伝導型溶接という。
 溶融形状は広く浅く、滑らかなビードが得られるため板金加工などにおいて後処理が不要になるなどのメリットがある。しかしながら、被溶接物への入熱が大きく熱ひずみなどに注意が必要である。
 レーザをさらに強めていくと溶融した金属の蒸気圧の反力によって溶融部が押し下げられる。この押し下げられた窪みの形状が穴のようになると、レーザの反射光が穴の中に閉じ込められレーザの吸収率が急激に上昇し、深い溶け込みが得られるようになる。このような溶融状態での溶接をキーホール型溶接という。産業界で使用されるレーザ溶接の大半はこのキーホール型溶接である。
 レーザをさらに強くすると溶融金属の突沸が始まり、溶接状態は荒れる。さらにレーザの強度を上げると金属は固体→溶融→蒸発の溶融プロセスを飛ばし、固体→蒸発というアブレーション加工となる。通常溶接に使用するレーザ溶接機ではアブレーション加工となるパワー密度までは出すことができず、別の発振形態のレーザを用いる。
 

 図3パワー帯域による加工の比較

 7、パルス発振とCW発振
 レーザ溶接機には、パルスレーザとCWレーザがある。パルスレーザは近年、ファイバレーザも開発されているが主流はランプ励起パルスレーザである。
 パルスレーザはON/OFFを繰り返し発振する方式で、ON時間のデューティはおおよそ10分の1以下、ピーク出力は平均出力の10倍以上のものが多い。溶接速度はパルスの繰り返し数に依存し、あまり高速な溶接はできない。
 パルスレーザ溶接はレーザON時間が周期に対して短いため入熱が少なく、入熱や熱ひずみを嫌う微細加工や、あるいは高ピークパワーが必要な高反射材の銅やアルミなどの溶接に適用されている。
 一方、CWレーザは近年、ディスクレーザやファイバレーザの高出力化が進み、応用範囲が広がっている。高出力レーザは被加工物を高速に溶接できるほか、従来、苦手としていた高反射材の銅やアルミ溶接も可能にした。
 また、従来アーク溶接に頼っていたプラント用のパイプ、橋梁、造船などにも適用範囲を広げている。このような構造物の溶接はアーク溶接と組み合わせたハイブリッド溶接が主流となっている。図4にハイブリッド溶接の一例を示す。
 

 図4 8kWディスクレーザのハイブリッド溶接例

 8、レーザ切断
 レーザ切断の原理を図5に示す。レーザを金属に照射し溶融させ、溶融金属をガスにより吹き飛ばすことでレーザ切断が可能になる。
 一般的にビーム品質のよいレーザの方が切断能力は高いが、ファイバレーザのように10ミクロン程度のビーム径になると厚物の切断には不向きとなる。むしろ、数ミリ以上の厚さの金属には0・2〜0・3ミリ程度のビーム径の方が切断能力が高い。
 レーザ切断は、レーザ出力、切断速度、レーザ焦点位置、ガス流量によってドロスの付着などの切断品質が変わる。上記パラメータを最適化することでドロスのない切断が可能になる。

 図5 レーザ切断のメカニズム

 9、固体レーザとガスレーザの使い分け
 産業界で多く使用されているレーザの一つに炭酸ガスレーザがある。C炭酸ガスレーザも高出力・高ビーム品質を両立したレーザで、ディスクレーザやファイバレーザの固体レーザと出力帯域や加工対象が重複することがあるので、以下に加工特性の違いを述べる。
 図6はトルンプ製のディスクレーザと炭酸ガスレーザの加工特性の比較である。同等なビームで比較できるようビーム径とレイリー長(焦点深度)をそろえている。図から明らかなように、高速で溶込みが浅いときはディスクレーザが優れており、低速で溶込みが深いときは炭酸ガスレーザが優れている。
 本データでは溶込み深さ7〜8ミリのところで加工特性の優劣が反転している。レーザ出力やビーム品質により特性は変わるが、一般的には5ミリ程度を目安に5ミリより薄い板厚の加工はディスクレーザ、それ以上の板厚は炭酸ガスレーザと考えている。
 これは波長による吸収率の違いに起因していると考えられており、レーザ導入に当たっては、それぞれの被加工物に最適なレーザを使用したい。

 図6 固体レーザとガスレーザの加工特性

 10、最近の加工に関するトピックス
 高出力・高ビーム品質の両立により可能になった典型例としてリモート溶接がある。高出力かつ高ビーム品質であるため高出力なレーザを遠方に集束し、被加工物の溶接が可能である。
 例えば多軸ロボットにスキャナを持たせ、ロボットはラフな位置を描画するようにティーチングし精緻な描画はスキャナで行うことにより、ロボットは止まることなく移動しながら、必要個所をスキャナで走査しながら溶接可能となる。本方法の最大のメリットは、本来無駄な時間と見なされる溶接位置から、溶接位置への移動時間を限りなくゼロに近づけられることである。
 例えば、図7に示すように従来ロボット4台、溶接ガン5台で約35秒かかっていた溶接を1台のロボットと1台のスキャナで13秒でできてしまう。生産性向上ばかりでなく、ロボットやレーザの台数削減のメリットも大きい。

 図7 スポット溶接とリモート溶接の比較

 11、おわりに
 以上、固体レーザに関して原理や適用例の概略を述べた。しかしながら、本稿では紙面の制限もあり詳しく説明すべき点の多くを省略したため、理解しにくい点が多々あると思われる。この場でお詫びするともに、不明な点は気軽に問い合わせていただきたい。

 トルンプ/レーザテクノロジーセンター長 中村 強

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