フレッシュマン講座

抵抗溶接の制御・管理編2011

 1、はじめに
 抵抗スポット溶接の原理は図1に示すように、ワークを一対の電極で加圧し、加圧が安定してから溶接電流を通電し若干時間保持した後、加圧を開放する。溶接品質を決定する制御要素として加圧力、溶接電流、通電時間はスポット溶接の3大条件とされ、最近では電極の先端形状が通電路の電流密度を左右することから、電極形状を含め4大条件ともよばれている。
 十数年前までのスポット溶接に代表される抵抗溶接は、表面処理のない裸の軟鋼板が主体であり、従来からの経験豊富な交流式抵抗溶接で十分で、通常の作業現場では特に問題はなかった。
 その後、高張力鋼板や表面処理鋼板、制振鋼板など優れた性能を持つ鋼板が続々開発され、このような新材料は強さ、耐食性、制振・防音性などでは従来の鋼板と比較して優れているが、溶接性が劣るため溶接機器を含む施工法の改善が必要となっている。

 図1 スポット溶接の原理

 2、制御装置の進歩
 表1に昭和30年代から現代までのタイマ装置の制御素子、コンタクタのパワー制御素子、通電時間制御方式、外部特性制御方式を示した。
 タイマとコンタクタの制御素子と時間、および外部特性制御の間には密接な関係があり、昭和40年代初期までは、高級機を除き、アナログ制御の非同期または準同期制御で、コンタクタはマグネットスイッチまたはイグナイトロンであった。
 高級機であるシーム溶接機や大容量機は同期制御、タップ調整しにくいポータブル溶接機は準同期制御で、通常の定置式スポット溶接機はタップ式の非同期制御であった。
 昭和50年代ではイグナイトロンはサイリスタと世代交代し、トランジスタがIC(集積回路)化され、デジタル制御の同期式が主流となった。その後マイコン制御方式が出現し、現在ではその性能をフルに活用した高性能な定電流制御が主流となり、多条件設定方式、各種モニタ機能、自己診断機能、電空比例弁による加圧力制御など、豊富な付加機能を有してきている。
 このような進歩の半面、非同期制御時代には電流調整器として必要であった溶接トランスのタップが価格との兼ね合いで廃止され、溶接電流波形は連続した正弦波から、電流が流れない断続的な波形となり、安定範囲を狭くしたり溶接品質を低下させたり入力kVAを大きくさせるなどの悪影響を与えている。

 表1 抵抗溶接機用・制御装置の歴史

 3、代表的な電源方式の特徴
 図2は、抵抗溶接を電源方式で分類したもので、抵抗溶接機といえばその大半は単相交流式である。現在ではインバータ式が注目されているが、抵抗溶接の基本は単相交流式であり、今後もこの傾向は続くと思われる。
 その理由として構造と回路構成がシンプルで低価格であり、さらに優れた性能を持った鋼板が開発されているものの、基本的に交流式で溶接できない鋼種や金属はごく稀であるためと考えられる。
 しかし、めっき鋼板や制振鋼板では安定範囲が狭く、打痕による外観を重視する場合には仕上げが必要となったり、単相入力でしかも瞬時入力が大きいため力率が低いなどの問題を抱えている。
 三相交流式は通常三相低周波式と呼ばれ、アルミニウム合金や鉄道車両用のスポット溶接、大電流プロジェクション溶接機などに溶接性能と電源事情によって使用されてきたが、制御回路が複雑で高価なことと整流器の大容量化に伴って三相整流式とインバータ式に押しやられ、現在では用途が限定されている。
 インバータ交流式は、交流式とインバータ直流式の特徴を兼ね備えた溶接電流を台形波とした制御方式である。
 コンデンサ式は電源設備と容量が小さく、被溶接物と電極を管理すれば安定した溶接強度と美しい外観が得られる優れた溶接法だが、大電流・短時間溶接であるため機械構造が定置式に限られ、めっき鋼板と高速作業に難点があるなど用途が限られている。

 図2 電源方式による分類

 4、安定した溶接品質
 スポット溶接における溶接電流波形とナゲットの温度上昇の関係は、図3に示すとおりである。単相交流式のスポット溶接機には、溶接トランスに電流調整用のタップがなくサイリスタの位相制御に頼るため、1サイクル中に2回溶接電流が流れない期間が生じる。
 このように溶接電流が短時間内でも変動すると、電極からの吸熱との関係で加熱と冷却を繰り返し、ナゲット形成過程で溶融部を中心に膨張/収縮し結果的に大きなナゲットを形成するが、安定範囲は狭く大きな溶接電流を必要とする。
 これに対し、インバータ直流式はわずかな電流リップルはあるものの、理想的な温度上昇が得られ、さらに電流が集中することから通電初期の温度上昇が高く、単相交流式と比較して低い溶接電流で円筒形のナゲットを形成する。こうした理由から、重ね枚数が増加しても2枚重ねと同じ条件で溶接が可能であり、固有抵抗の大きいステンレス鋼板では散りが発生する場合もある。
 図4は合金化亜鉛めっき鋼板、目付量 45/45グラム板厚0・7ミリのスポット溶接における安定範囲を示したもので、溶接電流を200アンペアずつアップさせ、ナゲット径の下限は板厚の平方根の4倍とし、上限は散りが発生する直前として評価した。単相交流式の安定範囲を100とした時、単相整流式は単相交流式より若干広い117、インバータ直流式は339と非常に広く、めっき鋼板のスポット溶接に優れている。

 図3 電流波形による温度上昇

 図4 めっき鋼板の安定範囲

 5、電極の管理
 日常点検の中で、電極管理は最も重要な項目である。電極は溶接部に溶接電流を供給するとともに加圧力を与え、さらに被溶接物表面の冷却が主な役目で、材料特性は導電性が良い、高温硬さが大、耐磨耗性が高く、熱伝導性のよさが求められる。
 固定された電極でスポット溶接を繰り返し行うと、溶接を重ねるに従い電極先端の当たり面が拡大して、溶接部の電流密度・発熱が低下する。これにより、ナゲットの大きさが減少して接合強度が低下する。以上の理由から、溶接品質を安定に保つには電極当たり面積(先端形状)の管理が必要となる。板厚に対する電極に逃げるエネルギーの割合を図5に示す。
 電極先端形状の管理には次の二つの方法がある。
 ◇集中管理方式
 交換方式とも呼ばれ、電極チップを予め用意しておいて電極寿命がきたら交換する。先端整形は専用の整型装置や旋盤などの工作機械を使って加工管理するため、安定した先端形状が得られる。
 ◇個別管理方式
 ドレッシング方式とも呼ばれ、溶接機に電極を装着したままサンドペーパや専用チップドレッサなどで電極の先端を整形する。簡単な方法だが、形状のバラツキが発生しやすく注意が必要である。
 また、電極寿命でもう一点重要なことは冷却水である。水冷は被溶接物から伝わる熱、電極自体の発熱による先端の軟化および変形を抑えるのに大切な要素で、電極チップ交換時には必ず冷却水パイプの長さが適切か、冷却水の流れを阻害する変形の有無をチェックポイントに加えておきたい。

 図5 電極に逃げるエネルギーの割合

 6、保守点検
 生産工場で製作工程に組み込まれている設備は、溶接機に限らず安全によい製品を作り出すために日頃の保守点検が重要である。日常点検(作業前)は1週間〜1ヵ月点検、6ヵ月〜1年点検、2〜3年点検と点検周期を決め、計画的に実施することが大切である。
 最近、多くの生産工場で各種改善活動が日常業務として定着しており、かなりレベルの高い予防保全活動が実施されている。設備管理者は、機器に付属している取り扱い説明書をよく読み、対象溶接機毎にチェック表を作り、少なくても作業前点検、週次点検項目は作業者が日常作業として実施できるよう配慮することが必要である。
 スポット溶接機は、装置形態や製造メーカーで多少異なるが基本的な機器、機能は変らない。点検マニュアルや要領書などは基本的なものを一つ作ればメーカー、形式が変わっても少しの手直しでほぼ全てに適用できる。
 日常管理や溶接条件設定に必要な測定機器として、溶接電流と通電時間が測定できる溶接電流計(瞬間電流計)、電極の加圧力の測定ができる加圧力計程度はぜひそろえたい。また、そのほか用意するのが望ましい測定器として、水量計や絶縁抵抗計(メガ)などがある。これらの計器は定期的に校正を行うことを推奨する。

 7、作業環境と安全
 抵抗溶接はアーク溶接に比べ取り扱いが簡単で、作業者の技能やスキルなどで溶接品質に対し影響を与えることは少ない。アーク溶接については認定試験制度が行われていて、アーク溶接に携わる人は安全に対する知識を持っているが、抵抗溶接は作業内容によっては簡単な教育で作業に携わることができる。したがって、作業者のレベル層が広範囲にわたるため、管理者は作業者の能力、技量を充分把握して作業につかせることが必要だ。
 抵抗溶接機の安全対策を考えるとき、加圧機構、溶接部からの溶融金属の飛散、溶接部は高温、電気を使用の4点がキーワードとなり、これらの点に注目して作業者が定置式スポット溶接機を使い、溶接作業をする状態を想定し事故要因を形態別に分けて考えてみる。
 ◇挟まれ防止
 加圧装置の可動部は溶接に差し支えない個所はカバーをする。ただし、電極間はカバーすることが不可能であり、事故を防ぐには、セット治具などを使い電極から手が離れるような工法を工夫する必要がある。
 一般に溶接始動は足踏みスイッチを使うことが多いが、セット治具を使い、両手起動スイッチによる起動方式を採用して強制的に手が遊ばないようにするのも有効な手段である。さらにエリアセンサ、マットスイッチを使い、安全回路を組み込む方式もよく採用されている。
 ◇火傷防止
 溶接時に発生する散りは、溶融した金属が飛び散るもので人体に触れると火傷する。皮手袋、腕カバー、前掛け、脚カバー、帽子、防じんメガネを着用し、肌を出さない格好での作業が必要となる。
 また、装置側からの対策としては電極の近くに作業に支障のない範囲でカバーを付け、散りが広く遠くに飛び散らないように工夫することも、ほかの機械を使う作業者の安全や機械の保護のためにも実施すべき対策である。
 油気を含んだほこりやウエスなど、可燃物に散りがかかった場合、火災などの大事故につながる可能性もあるので、散り飛散防止対策はおろそかにしてはならない。
 さらに、溶接条件の見直し、あるいは溶接機の見直しを行い散りの発生を極力押さえる方策も一つの方向である。
 また、散りによる火傷とは別にスポット溶接箇所および何点か溶接した被溶接物は高温になっているので、取り扱いには充分注意が必要である。
 ◇感電防止
 感電防止策は人命にかかわる可能性のある重要な項目であり、溶接装置本体は必ずアースを確実に実施することが必要である。さらに安全を期するために、漏電ブレーカを設置することを推奨する。
 ◇その他
 ペースメーカーそのほかの生命維持装置を使用している人は、溶接作業場所に近づけてはならない。また作業場所は溶接時に被溶接物に付着する油、防錆剤、シーラントなどの付着物が溶接時の熱で焼け焦げて煙、ガス、臭いを発生させるので換気装置なども必要である。

 8、おわりに
 設備管理をうまく進めることは、基本的に対象装置をよく知ることと、問題発生に対しては発生状況を的確につかみ、原理原則に基づき解決策を追求する姿勢である。本項のテーマについて力量不足で充分解説できなかったが、抵抗溶接の制御・管理を学ぶ上で多少のヒントとなれば幸いである。

 ナストーア/技術部部長 古川浩人

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