フレッシュマン講座

溶射編2011

 1、溶射とは
 溶射とは書いて字のごとく「材料を溶かして射る技術」である。電力や鉄鋼など基幹産業から、半導体製造装置などの電子産業に至る様々な先端分野に利用されている表面改質技術の一つである。
 目的に応じてその機能を最大限に発揮できるよう調整配合した溶射材料(金属やセラミックスなど)を、様々な熱源により溶融または軟化させ微粒子の状態で高速で吹き付けることにより、加工対象物(ワーク)の表面に新しい高機能皮膜を形成する技術。吹き付けられた溶融微粒子は瞬時に冷却され固化し、皮膜を形成する。
 耐摩耗性や耐熱性、耐腐食性、防さびなどその用途目的は多種多様で、ワークの耐久性、信頼性の向上はもちろん、劣化・損耗した部品に再度溶射することによる再利用で環境への配慮や、コスト削減などに大きく貢献する技術として、近年ますます注目を集めている。
 鉄基材だけでなくアルミニウムやニッケルなどの非鉄金属や、CFRP(繊維強化プラスチック)などの非金属にも適用可能で、しかも溶射材料はアルミニウムやステンレス、チタン、モリブデンなどの金属や各種の合金、セラミックス、金属とセラミックスの複合材料であるサーメットなど、実に多岐にわたる。
 これら材料と各種溶射法を組み合わせることにより、物理的・化学的・機械的に性能の全く異なった機能を持つ皮膜を自在に作ることができ、応用範囲は無限と言える。

 2、溶射法の分類と特徴
 溶射法は材料を溶融させる熱源の種類により、電気エネルギーを用いたもの(大気プラズマ溶射、減圧プラズマ溶射、アーク溶射)と、燃焼ネルギーを用いたもの(高速フレーム溶射〈HVOFなど〉、溶線式フレーム溶射、粉末式フレーム溶射)に大別される。
 また、溶射材料も粉末、ワイヤ、棒の形状したものが使用され、各々溶射機器によって選択される。材質は幅広く金属、合金、サーメット、セラミックス、プラスチックなど用途によって選択され、同じ材料でも溶射機器によってでき上がった皮膜は硬さや密度、密着力が多少異なる。以下に代表的な溶射法と特徴を記す。
 ◇大気プラズマ溶射
 セ氏1万度を超える高温プラズマジェットを利用した溶射法。溶射材料の選択自由度が高く、基材と溶射皮膜との密着性が高い(写真1)

 写真1 大気プラズマ溶射

 ◇減圧プラズマ溶射
 減圧下で雰囲気調整したチャンバー内で行うプラズマ溶射法で、溶融粒子の飛行速度が大気プラズマよりも速く、よりち密で高い結合力をもつ皮膜を得ることが可能。材料特性が損なわれないため、設計通りの特性を持った皮膜やチタンなどの活性金属の皮膜が形成できる。
 ◇アーク溶射
 2本のワイヤ溶射材料に電圧を印可させてアーク放電を発生させ、その熱で溶融された微粒子を加工対象物に吹き付ける溶射法。厚膜加工も可能で、寸法復元などの補修にも適する。現地工事対応が容易であることも大きな特徴。
 ◇高速フレーム溶射
 高速で材料を噴射するため、ち密で高密着力の皮膜が形成できる。特にサーメット材料溶射の耐摩耗性能皮膜に効果的(写真2)

  写真2 高速フレーム溶射

 ◇溶線式フレーム溶射
 最もスタンダードな溶射方法で、コストパフォーマンスにも優れている。アーク溶射同様、厚膜加工が可能で、寸法復元などの補修にも効果的。
 ◇粉末式フレーム溶射
 フュージング(再溶融)により無気孔に近い緻密な皮膜が形成できる。基材との冶金的結合による高い密着力と優れた耐食性が特徴。

 3、溶射工程について
 溶射工程は、前処理、溶射および後加工に大別することができる。
 前処理は、皮膜と基材との密着力に著しく影響するため重要な工程であり、基材の表面状態の調整、洗浄、マスキングなどを施す。また、基材を粗面化するブラスト加工なども前処理として行われる。ブラスト加工は基材表面の清浄化の効果もあり、溶射皮膜との密着性の向上に必要となる。
 溶射は、その使用目的に応じて前述した溶射材料および溶射方法を選定する。1種類の溶射材料および溶射方法により皮膜を形成する場合もあれば、使用目的により数種の溶射材料や溶射方法を組み合わせて複合皮膜を形成することもある。
 後工程は、研磨仕上げやバフ仕上げなどを行い、溶射皮膜を適切な仕上がり寸法および表面粗さなどに仕上げる。耐食性を使用目的とする場合には、溶射皮膜の気孔に封孔剤を塗布して浸透させる封孔処理を施す場合もある。
 これらの工程全てが満足する条件で施されてはじめて、使用目的に適した溶射皮膜の特性が得られる。

 4、様々な分野で適用される溶射技術
 以上、述べてきたように溶射技術は多種多様なニーズに最適な高機能皮膜の形成が可能であり、その応用範囲および可能性は無限大の拡がりを持つ技術と言えよう(図1参照)。施工事例のいくつかを列挙してみると、次のようになる。
 ▽航空機/ジェットエンジンやランディングギア(耐熱、耐摩耗)▽高速鉄道車両/トラクションモータ用ベアリング(電気絶縁、耐摩耗)▽ガスタービン部材/タービン(耐熱、耐フレッテング)
 ▽NAS電池/単電池ケース(耐食)▽リチウムイオン電池/電極材製造装置部品、セパレータ・フィルム製造装置部品(汚染防止、耐摩耗、非粘着)▽太陽電池/スパッタリング装置用ターゲット、成膜装置部品(耐摩耗、帯電防止)
 ▽製紙/プレスロール、カレンダロール、ドライヤーロール(耐食、非粘着、軽量化、補修)▽橋梁/橋梁部品(耐食、防錆)▽鉄鋼/CGL用シンクロール、サポートロール、各種搬送ロール(耐熱、耐ビルドアップ、耐食、耐溶融金属)
 ▽半導体/半導体製造装置用シールドパーツ、ステージ(発塵防止、耐プラズマ、静電吸着)▽フラットパネルディスプレイ/フラットパネル製造装置用シールドパーツ、ステージ(発塵防止、耐プラズマ、静電吸着、帯電防止)
 ▽自動車/プレス金型、樹脂金型、切削工具(耐熱、耐食、耐焼き付き)▽造船/ディーゼルエンジン部品、ターボチャージャー(耐摩耗、耐食、寸法復元)
 ▽医療(インプラント)/人工関節、人工骨(生体への親和性向上)▽樹脂フィルム/Tダイ、押出機スクリュー、ブレーカープレート(耐食、耐摩耗、非粘着、製品品質向上)──など。
 これらはあくまでも一例に過ぎない。数ナノメートルの薄膜からミリ単位の厚膜までカバーできる溶射技術は、省力化や省エネ化、高効率化といったあらゆる産業界のニーズに対応する表面改質技術として、今後ますます新たな技術やアプリケーション開発が進展していくものと考えられる。

 図1 溶射技術の適用範囲

 トーカロ/営業企画部部長 桑村壽

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