フレッシュマン講座

呼吸用保護具編2011

 溶接作業では「溶接ヒューム」と呼ばれる微小粒子が発生し、溶接の材料などによっては毒性の高い化学物質が含有することもある。また、溶接の種類によっては有毒ガスが発生することもあり、さらに閉鎖空間で溶接作業を行う場合は、酸素欠乏(酸素濃度が18%未満の状態)になることもある。
 溶接ヒュームについての深刻な問題は、含有する物質の毒性が低い場合であっても長年にわたって吸引し続けると、呼吸困難や心肺機能障害などを起す「じん肺」(溶接工肺とも言われる)になることである。じん肺の恐ろしさは、いったん患すると治療する方法がないことである。
 このような疾病から作業者を守るためには、環境中の有害物を作業者が吸引しないような対策をとることである。その中で最も簡便で、確実に効果が得られる方法は「マスク」と呼ばれる呼吸用保護具を着用することである。
 換気装置などの適切な稼働は、作業環境を改善するために有効である。しかしながら溶接作業では、作業者の呼吸領域と溶接ヒュームなどの発生源とが極めて接近しているため、十分な換気を行なうことが困難な場合が多い。
 このため溶接作業では、換気装置などの設備の有無にかかわらず、呼吸用保護具が不可欠と考えるべきである。溶接作業現場では、溶接作業者の健康障害だけに目を奪われがちであるが、周辺作業者についても同様な配慮が必要である。

 溶接作業に有効な呼吸用保護具
 ◇防じんマスク
 通常の溶接作業では、溶接ヒュームに対する防御が最も重要となる。このための呼吸用保護具として多く使用されているのは、防じんマスクである(写真1)。厚生労働省では「防じんマスクの規格」に基づく国家検定を実施しており、溶接作業では検定に合格したものを使用しなければならない。

 写真1 防じんマスクの装着例

 防じんマスクの最も重要な性能は、ろ過材(フィルタ)を通る粒子状物質を何パーセント捕集するかを表す「粒子捕集効率」である。この数値によって防じんマスクが等級分けされている(表1)。厚生労働省の通達「防じんマスクの選択、使用等について」によると、溶接作業では粒子捕集効率の等級が「2」以上の防じんマスクを使用することが定められている。

 表1 防じんマスクの等級

 防じんマスクの防護性能は、ろ過材の性能だけでなく顔面との密着性(フィットネス)も大きく影響する。このため防じんマスクの着用時には、必ず取扱説明書に従ってフィットテストを行い、密着性が良好であることを確認する必要がある。
 ◇電動ファン付き呼吸用保護具
 防じんマスクに替わる呼吸用保護具として、電動ファン付き呼吸用保護具(PAPR)が、最近注目を集めている。
 これは内蔵する電動ファンによって吸引した環境空気をろ過材で清浄化し、その空気を着用者の呼吸域に送る方式のものである(写真2、図1)

 写真2 PAPRの装着例

 図1  PAPRの構成と空気の流れ(概念図)

 PAPRもろ過材を使用しているので、基本的な機能は防じんマスクと同様である。PAPRの特徴は、電動ファンによって空気が着用者に送られるため防護性能が向上することと、呼吸が楽になることである。
 PAPRの性能および構造は、JIST8152「電動ファン付き呼吸用保護具」によって規定されている。性能および構造に関する事項について選択肢が増えるため、防じんマスクとは異なり多様性に富んでいる。
 溶接作業に使用するPAPRは、遮光保護具が併用できる(または組み込まれている)ことが要求されるため、それに適した面体などの種類や形状を選択する必要がある。
 環境空気を取り入れる口が着用者の背面にあるものは、ヒュームなどの発生源であるアーク点から離れているため、ヒューム捕集によるろ過材の負荷が低減できるというメリットがある。
 また、マグ溶接などで問題になっている一酸化炭素に対しても、それを除去する能力はないものの発生源から離れていることによる濃度低下によって、その有効性が期待されている。ただしこの場合は、ほかの溶接作業との関係に注意する必要がある。
 厚生労働省では、PAPRを国家検定の対象とするための作業を進ており、近くその内容が公表されるものと思われる。
 ◇送気マスク
 閉鎖空間で溶接作業を行う場合、酸素欠乏に注意する必要がある。防じんマスク、PAPRなどのろ過式呼吸用保護具には不足した酸素を補う機能がないので、このような環境で使用することは危険である。
 酸素欠乏のおそれがある環境で溶接作業をする場合は、外部からホースを通して呼吸可能な空気を送気する方式の送気マスクが有効である。送気マスクには電動送風機を用いるホースマスク、コンプレッサなどの圧縮空気を空気源とするエアラインマスクなどがある。
一酸化炭素が高濃度となる環境では、送気マスクの使用を検討する必要がある。

 重松製作所/常務取締役社長室長 山田比路史

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