フレッシュマン講座

肉盛溶接編2011

 1、肉盛溶接の目的
 肉盛溶接とは様々な金属材料(母材)の表面に、適切な溶接材料を選択して溶接金属を積層し、元の母材の復元やその母材よりも性能を高める溶接施工法の総称である。機械設備の部品は使用される環境によって腐食、摩耗、酸化などが発生し、これらが部品の寿命を著しく短くする。従って、これら部品の延命化を図るために肉盛溶接が活用される。
 近年ではプラント関連部品の予防保全として、製作段階から肉盛施工する対策が採られているケースが多く、設備機器のライフの長期化に必要不可欠な溶接施工技術といえる。

 2、表面改質
 肉盛溶接は表面改質(図1)の一種である。母材の材質、形状、肉厚、使用環境、機械的要求精度などによっては、必ずしも肉盛溶接が適切でない場合がある。その際は肉盛溶接法以外の溶射法やメッキ法、窒化、浸炭、焼入れなどを選択しなければならない。

 図1 表面改質の種類

 3、肉盛復元手順
 復元に着手する前の準備として、溶接に適する材質であるかどうか分析の実施やミルシートにより確認する。使用履歴、損傷に至った経緯、損傷程度などを確認し、基本的には母材と同等成分か近似成分の溶接材料を選定すると同時に、施工手順を検討する。
 溶接前の加工は、健全な母材表面の確保のためにガウジングやグラインダー、機械加工などで行われる。その後必要な肉盛範囲を計測する。加工前に検出された母材表面の割れは確実に除去するとともに油脂、異物、塗料などが肉盛範囲に残らないように、これらも確実に除去する必要がある。
 次に母材の材質に応じて母材の加熱(予熱)を行う。炭素鋼など硬化性(炭素当量)の高い材料等は適切な予熱が必要となる。表1に炭素当量の計算方法と予熱温度の目安を示す。
 肉盛材料は通常、母材同等成分あるいは近似成分を選定するが、炭素当量の高い母材の場合は割れが発生しやすくなるので、硬化元素の少ない軟質な肉盛材料を用いて復元し、その表面層には、摩耗原因に応じて耐性の高い適切な肉盛材料(硬化肉盛など)の溶接を行う。
 溶接完了後、材質に応じて溶接後熱処理を行い、溶接時の残留応力等を緩和させる。

 表1 薄材炭素量と母材厚に対する余熱温度選定の目安

 4、肉盛材料
 磨耗に至る原因は様々で、車輪や軸受けにみられる金属疲労が原因の転がり磨耗、金属間同士の接触によって生じる金属間磨耗、土砂・粉粒体などが原因で生じる土砂磨耗、腐食環境における腐食磨耗、高温中の酸化が原因による高温酸化磨耗、繰り返し衝撃が加わることによる衝撃摩耗などがある。大半の摩耗はこれら複数の摩耗要因が重複している。従って、それぞれの磨耗原因に対応した肉盛材料を選定する必要がある。
 表2に当社炭酸ガスフラックス入りワイヤ製品群の一例を紹介する。パーライト、ソルバイト系の肉盛材料は軟鋼に炭素、クロム、モリブデン等の元素を少量添加することによりフェライトの析出を抑制し、硬さを上昇させたものである。延性があり機械加工性が良好なことが特徴で、転がり摩耗、金属間摩耗などに適している。
 マルテンサイト系は低クロムマルテンサイト系、13%クロムマルテンサイト系等に分かれる。前者は炭素、クロム、モリブデンの添加量を増加させ硬化を図ったもので、金属間摩耗や土砂摩耗に適している。13%クロムマルテンサイト系はクロム量を13%添加することにより耐熱性が向上する。さらにニッケルを数%添加することにより、耐食性も向上する。
 炭化物系は、溶着金属中に高硬度の炭化物粒子を分散析出させることによって耐熱性、耐磨耗性を大きく向上させた肉盛材料である。代表的なものとしてクロム炭化物、ニオブ炭化物、モリブデン炭化物、バナジウム炭化物、タングステン炭化物などがあり、それぞれの粒子単体の硬さはHV1500を超える。
 13%マンガンオーステナイト系は、肉盛したままの状態では硬さが低いが、衝撃力を加えることにより硬さが向上するので、繰り返し衝撃が加わる環境に適している。
 そのほかにコバルト合金やニッケル系の自溶合金もあり、優れた耐熱、耐食、耐高温摩耗等が得られる。

 表2 摩耗形態と硬化肉盛材料の一例

 5、金属間の焼付き防止
 金属間の焼付き防止には、いずれか片方の材料に銅合金が主に用いられる。銅は熱伝導率が高く熱が拡散しやすいため焼付き現象が起きにくく、ピストンやシールリングなどの肉盛に用いられる。ただし、純銅は軟らかく耐磨耗性が低いため、主にアルミニウム青銅やリン青銅などの銅合金が用いられる。鉄鋼材料に肉盛するケースが大半だが、溶接時の溶込みが深くなると割れが発生する場合がある。
 これは銅と鉄の固溶限が低いことが原因である。過大な溶込みによる溶接で銅に溶込んだ鉄が析出相として偏析したり、鉄に溶込んだ銅が粒界侵入することで、機械的性質や耐食性が低下する問題が生じることがある。また、アルミニウム青銅の溶接金属中に鉄が過剰に溶込むと遊離鉄が発生し、結果著しく硬度が上昇し溶接金属に割れが発生することがある(写真1)
 写真2にSUS304のオーステナイト粒界に銅が侵入した組織を示す。これらの対策としては溶接入熱を低減する必要がある。また、銅とステンレスの溶接などでは中間層にニッケルを肉盛(下盛)することで粒界侵入の抑制に効果的である。ただし、アルミニウム青銅の肉盛時は適用不可とする。

 写真1 アルミニウム青銅溶接金属中の遊離鉄


 写真2 SUS304への粒界侵入

 6、技術的特徴
 母材に適合する溶接材料と溶接施工法が確定すれば、期待する金属特性を母材に付与することができ、肉盛層の厚さには制約が少ない。このため、あらゆる鋳造金属の鋳造巣や産業設備機器の部分的損耗部位などは、肉盛溶接で健全に再生できる。
 欠点は微小な部品や薄板の肉盛には不向きであり、溶接入熱が大きいため母材の変形や歪が生じやすい。従って、変形防止措置や材質や用途によっては、残留応力の除去が必要とされる。

 ナイス/技術部門技術グループ副長 大西武志

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