フレッシュマン講座

溶接・切断(溶断)用ガス編2011

 はじめに
 大洋をめぐる巨大タンカーや海峡にかかる長大橋、街にそびえる超高層ビルや大型タンク、原子炉や宇宙ロケットから電子集積回路のリードワイヤに至るまで、あらゆる分野の製造を支える重要な加工技術として、「溶接・切断(溶断)」がある。特に金属の「溶接・切断加工」に必要不可欠な要素として「溶接・切断(溶断)用ガス」が重要な役割を担っており、多種多様なガスが使用されてきた。
 近年、加工技術の高度化や加工品質の多様化に追随するため、「溶接・切断(溶断)用ガス」にもその対応を求められており、加えて溶接作業者に対する健康性能や地球温暖化に対する環境性能までの付加を問われている。つまり、「溶接・切断(溶断)用ガス」の役割は、金属加工の単なるアシストガスとしてだけではなく、省力化やコスト削減、ひいては環境対策にとって重要なファクターになってきたと言える。
 以下、溶接用ガスの基礎を中心に、現在の技術動向や切断用ガスにも触れながら解説する。
 
 溶接用ガス
 (1)溶接には、その接合の機構によって「融接」「圧接」「ろう接」に大別される。
 「融接」は被溶接材(母材)で溶接する部分をアークやガス炎により加熱し、母材単独あるいは母材と溶加材を融合させて溶融金属を作り、これを凝固させて接合する方法で、ガスシールドアーク溶接法が代表的な溶接方法。ガスシールドアーク溶接は、ティグ溶接、ミグ溶接、マグ溶接を代表とする広範囲な溶接法に用いられることから、産業ガスとの関わりも多岐にわたる。
 「圧接」は接合部へ摩擦やガス炎などによるエネルギーを付与した後、機械的圧力を加えて接合させる方法。「ろう接」は母材を溶融することなく、母材よりも低い融点の溶加材(ろう材)を溶融させ、毛細管現象を利用し、接合面の隙間にいきわたらせて接合する方法である。
 (2)ガスシールドアーク溶接には様々なガスが用いられ、溶接法や母材にあわせた選定がされており、代表的な「溶接ガス」には炭酸ガス(活性ガス)、アルゴン、ヘリウム(不活性ガス)および少量添加ガスとしての酸素、水素などが使用される。
 ガスシールドアーク溶接は、アークエネルギーにより溶融した金属が大気中の窒素ならびに酸素との反応を防ぐためにアルゴンや炭酸ガスなどを使用し、大気からしゃ断(シールド)しながら溶接を行う。
 それぞれの特徴として、「炭酸ガス」は、無色・無臭の不燃性のガスで、大気中に約0・03%程度しか存在しておらず、空気の約1・5倍の重量があり、乾燥した状態ではほとんど反応しない安定したガスで、化学プラントや製鉄所の副生ガスを原料として製造されている。
 「アルゴン」は、高温・高圧でもほかの元素と化合しない化学的に極めて不活性で、無色・無味・無臭のガスで、空気中に約0・93%しか含まれておらず、比重は1・38(空気=1)、沸点はセ氏マイナス186度。反応性の高い物質の雰囲気ガスとして広く利用されている。
 「ヘリウム」は、無色・無臭の不燃性のガスで、大気中に約5・2ppmしかなく、比重は0・14(空気=1)、沸点はセ氏マイナス269度。化学的にはまったく不活性で、通常の状態ではほかの元素や化合物と結合しない。理論的には空気から分離抽出できるが、含有量があまりに希薄なため、工業的には天然ガス中に約0・5%前後含まれるものを分離・精製している。
 「酸素」は、無色・無味・無臭のガスで空気の約21%を占めており、比重は1・11(空気=1)で沸点はセ氏マイナス183度。化学的にはきわめて活性が高く、様々なものを酸化する力が強く多くの元素と化合する。
 「水素」は、無色・無味・無臭の可燃性のガスで、比重は0・07(空気=1)と地球上の元素の中で最も軽いガス。沸点はセ氏マイナス253度で熱伝導が非常によく、粘性が極めて小さいため金属などの物質中でも急速に拡散する。燃焼性も極めてよく、燃焼後は水になることから、未来のクリーンエネルギーとして注目を集めている。
 これらの溶接用ガス(シールドガス)は、溶接方法に合わせて「炭酸ガス」「アルゴン」をそれぞれ単体で使用、「アルゴン」と「炭酸ガス」の2種混合ガス、これに「酸素」を加えた3種混合など現在では多くの種類のシールドガスが使用されており、目的や用途に応じた使い分けがなされている。
 溶接部を大気からしゃ断するという役割だけでなく溶接品質やコストを左右するアイテムとして、シールドガスに求められる役割は重要なものとなっている(表1)

 表1 溶接ガスの種類と物理的性質
 
 ガスシールドアーク溶接は最もポピュラーな溶接法の一つだが、スパッタの抑制や外観の向上、溶接速度のアップなどを目的として、数種のガスを混合させて使用されている。母材や溶接法に合わせた選定が重要となり、使用に際しては注意が必要となる。
 一般的な溶接用混合ガスとして表2のようなものが使用され、たとえば当社の「ハイアコム」は写真1のように、厚板マグ溶接の「高速化」「低スパッタ化」に絶大な効果を発揮することが可能。

  表2 シールドガスの種類と適用材料


 写真1 低スパッタを実現するハイアコムの効果(左)
  一般マグガスではスパッタが目立つ(右)

 溶接工程におけるコストダウンとは、高速化による「時間短縮」や高品質にすることによる手直し工程、前処理工程・仕上げ工程などの工数削減が重要となり、これらをさらに進化させた溶接用混合ガスの開発が現在でも進められている。
 最近の薄板溶接法の高速化、高品質化への対応としては、ガスシールドアーク溶接法よりさらに熱エネルギーを集中させ高効率化を狙うプラズマ溶接、レーザ溶接などへ移行する傾向にある。
 プラズマ溶接は、専用のノズルによりアークを拘束して高温化させるとともに、エネルギーを溶接部に集中することにより材料を溶融・接合させる方法で、溶接を行なう際には「アルゴン」が主に使用されるが、最近では高効率を求め「アルゴン」に「水素」を添加した混合ガスが使用される。
 レーザ溶接は、レーザ光をレンズまたは鏡によって局部に集光させ、その光エネルギーが母材に吸収されて継手部の温度が局所的に上昇させることにより、溶融・接合させる方法。レーザ溶接に用いられるガスは、レーザ光を発信させるガス(励起ガス)とシールドガスがある。レーザ発振のガスは、レーザ光の発信方法によって様々な種類があり、炭酸ガスレーザの場合には「アルゴン」「窒素」「炭酸ガス」「一酸化炭素」の3種混合ガスや4種混合ガスが一般的である。
 
 切断(溶断)用ガス
 (1)鋼板の切断加工にも様々な方法が用いられる。一般的に構造材の切断加工には「熱切断」が用いられる。「熱切断」とは、熱エネルギーとガスの運動エネルギー、場合によってはガスが持つ化学的エネルギーにより鋼材を溶融・切断する方法。「熱切断」の種類としては、以下のような方法があげられる。
 〈ガス切断〉
 火炎と鋼材の酸化反応による熱エネルギーとガス流体の運動エネルギーを利用
 〈プラズマ切断〉
 アーク放電による熱エネルギーとガス流体の運動エネルギーを利用
 〈レーザ切断〉
 光による熱エネルギーとガス流体の運動エネルギーを利用
 (2)近年、高速・高精度切断のためプラズマ切断やレーザ切断の採用が年々増加傾向にあるが、厚板の切断ではガス切断(溶断)が主流で、全国厚板シヤリング工業組合のデータによると、業界全体の6割をガス切断が占めている。
 (3)ガス切断(溶断)は軟鋼・低炭素鋼の切断など、熱切断では工業的に最も広く使用されており、その原理を説明する。
 ガス切断(溶断)の最大の特徴は、切断部を溶融するための必要なエネルギーを切断部の鉄自身の酸化反応熱により補うところにあり、ガス炎で切断部を発火温度(セ氏約900度)に加熱し、そこへ酸素ガスを噴出して母材の鉄を燃焼しながら切断することができる。
 つまり、ガス切断(溶断)は切断酸素により鉄を燃焼させ、切断酸素気流によりその燃焼生成物と溶融物を吹き飛ばして除去するという2つの作用によって行なわれる。このため、酸化・燃焼しにくいステンレス鋼やアルミニウムは、酸化・燃焼しても酸化物(アルミナ)が母材よりも著しく高融点で溶融物になりにくいため適用されない(図1)

 図1 ガス切断の模式

 (4)鋼板の切断加工に用いるガスにも多くの種類がある。ガス切断(溶断)の際には、母材を予熱するための燃料ガスとして古くから「アセチレンガス」が用いられ、現在では「LPガス(液化石油ガス)」が最も一般的に使用されている。
 そのほかの可燃性ガスとして「プロピレン」「エチレン」「メタン」なども使用され、状況にあわせてこれらのガスを混合して使用されることもある。最近では低炭素の環境性能や切断面の高品質化を狙い、水素を用いたガス切断も徐々にではあるが採用されている。
 「アセチレンガス」は無色のガスで、純粋なものは無臭。比重は0・91(空気=1)で沸点はセ氏マイナス84度。カーバイドから製造されるアセチレン自身は不安定で反応性が高い物質であるために、容器中の溶剤に溶解させて安定化させた状態で使用する必要があり、そのために「溶解アセチレン」とも呼ばれている。
 また、「LPガス」は石油採掘、石油精製や石油化学工業製品の製造過程などで副生した炭化水素を液化させた発熱量の高いガス。家庭用では「プロパンガス」と呼ばれて広く使われており、工業用、自動車燃料、都市ガス原料として使用されている。 
 ガス切断には燃焼ガスおよび切断ガスとして支燃性の「酸素」を大量に使用する。「酸素」は無色・無臭で比重は1・1(空気=1)、沸点はセ氏マイナス183度である。高圧ガス容器に充填したものや液化酸素の形態で貯蔵することができる。切断の際、鋼材の酸化反応を利用するためガス純度が切断品質に影響を及ぼす。そのため、高圧ガス容器に充填されている「酸素」は、JISで規定された充分な純度を確保する必要がある。
 また、ガス切断には切断吹管や切断火口といった専用機器が必要で、使用ガスの種類、圧力、温度などの条件により適合したものを、安全に十分配慮して使用する必要がある(表3)

 表3 切断ガスの種類と物性比較

 (5)特に最近では、「水素」を用いた熱切断が脚光を浴びている。ガス切断は化学的反応である鉄の燃焼を切断原理に持つことから切断速度の点では大きな制約を受け、過大な入熱が歪を発生させるといったことが問題となる。
 また、業界では安価で高精度な切断技術が求められており、「水素切断」は最も一般的に使用されている「LPガス」と比較して、以下のような多くの優位性を持つ切断ガスとして注目されている。
 ◇切断面品質、速度などの切断能力が「LPガス」に比べて高い
 ◇熱影響による歪が「LPガス」に比べて少ない
 ◇輻射熱の小さな水素を用いることにより高温作業の熱切断作業環境が改善される
 ◇発生する炭酸ガスがほかのガスより低減され環境に優しい

 岩谷産業/ウェルディング部部長 土田和久

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