フレッシュマン講座

溶射編2010

 Q 溶射とはどんな施工方法ですか
 A 溶射は、溶融させた材料を噴射し、粒子を積層させて成膜する技術です。
 溶射の主な特徴は、(1)金属、セラミックス、ガラスなど種々の基材表面に溶射皮膜を施工できる(2)溶射材料の種類が非常に多い(3)基材への熱影響が小さく、熱ひずみが少ない(4)皮膜は気孔を含む扁平粒子の積層組成である(5)基材の大きさに制限がなく、要求範囲のみの部分溶射施工も可能である(6)現場施工が可能であり、成膜速度が速いなどがあります。

 Q溶射はどのようにして成膜させるのでしょうか。何(溶射材料)を、どのように溶融(溶射方法)して、どのように成膜(溶射工程)させるのかを順に説明してください
 A まず、溶射材料から説明します。溶射材料は粉末状、ワイヤ状、あるいは棒状に成形したものを使用します。その一例を図1、2に示します。
 その材質は金属、合金、酸化物、炭化物および高分子に大別され、さらにこれらの混合物と複合物もあります。近年では、金属や高分子の中空チューブに粉末を充填して成形した複合線材も開発されています。
 このように非常に多くの種類がある溶射材料ですが、粉末状の溶射材料を使用する溶射装置が多いため、その大半は粉末状のものです。粉末状といっても製造方法の違いから、さらに多くの種類があります。粉末材料の製造方法としては、噴霧、粉砕、造粒、焼結、被覆、混合などがあります。
 粉末の大きさは、約5〜150μmの範囲で溶射方法に適した粒度分布に調整されています。製造方法および粒度分布が異なれば、同じ材質の粉末材料を使用しても溶射施工された皮膜の特性は異なります。実際、溶射施工された皮膜の硬さ、密度、基材の密着力に大きく影響します。

図1 溶射材料(ワイヤ)


図2 溶射材料(粉末)

 Q 次に溶射方法について説明してください
 A 前述のように「溶射」は「溶融させた材料を噴射して積層させる技術です。溶射方法は、溶射材料を溶融させる熱源によって以下のように分類されます。
 1、燃焼エネルギーによる溶射方法
 フレーム溶射法は、燃料(アセチレン、プロパンなど)と酸素による燃焼炎を熱源とした溶射法です。燃焼炎中に溶射材料を連続投入して溶融させ、圧縮空気により溶融した粒子を基材表面に噴霧させます。
 溶射材料の形状により、溶線式、溶棒式あるいは粉末式に分類されます。溶線式には亜鉛やステンレスなどの金属と合金材料、粉末式には金属、セラミックス、高分子など、溶棒式にはセラミックスが使用されます。装置が小型軽量で取り扱いが容易であり、比較的安価で現場施工にも対応します。
 高速フレーム溶射法はフレーム溶射法と同様に燃焼(水素、プロピレン、ケロシンなど)と酸素による燃焼炎を熱源としますが、高圧で多量の燃料を使用して音速をはるかに超えるジェットガス噴流により粒子を溶融あるいは半溶融させて基材表面に噴射させます。
 この溶射方法で施工された皮膜は、他の溶射方法で施工された皮膜に比べて緻密で基材との密着力の高い優れた特性を示します。
 2、電気エネルギーによる溶射法
 アーク溶射法は連続送給される2本の金属製ワイヤに電圧を加え、それらの間に生じる電気アークを熱源とした溶射方法です。電気アークの熱によってワイヤを溶融させ、圧縮空気により溶融した粒子を基材表面に噴霧させます。
 フレーム溶射法と比較して、アーク熱源が高温で溶融効率に優れ、溶射処理能力(時間当たりの施工量)が高く、溶射材料はより高温で溶融されるため基材との密着力が高くなります。
 プラズマ溶射法はアルゴン、窒素とそれらに加える水素、ヘリウムなどの混合ガス中で大電流の直流アーク放電によりガスをプラズマ化した際に生じる高温・高速のプラズマジェットを熱源とした溶射法です。
 プラズマジェットの中心部は3万Kを超える高温となるため、高融点の金属、セラミックスなど種々の材料を使用することができます。このプラズマ溶射法には、減圧下不活性雰囲気中でプラズマ溶射する減圧プラズマ溶射法もあり、溶射材料の大気による酸化の影響を受けない皮膜を施工することができます。

 Q 溶射工程について教えてください
 A 溶射工程は、前処理、溶射および後加工に大別することができます。これらの工程すべてが満足する条件で施されてはじめて使用目的に適する溶射皮膜の特性が得られます。
 前処理は、皮膜と基材との密着力に著しく影響するため重要な工程であり、基材の表面状態の調整、洗浄、マスキングなどを施す工程です。また、基材を粗面化するブラスト加工なども前処理として行われます。ブラスト加工は基材表面の清浄化の効果もあり、溶射皮膜との密着性の向上に必要です。
 溶射は、使用目的から前述の溶射材料および溶射方法を選定します。1種類の溶射材料および溶射方法によって皮膜を施工することもあれば、使用目的に応じて数種の溶射材料あるいは溶射方法を組み合わせて複合皮膜を施工することもあります。図3に高速フレーム溶射による施工状況と溶射皮膜の断面ミクロ組織を示します。
 前述のように高速フレーム溶射された皮膜は、気孔が少なく緻密であることが分かります。
 後工程は、切削、研磨などの機械加工を施して、粒子の積層面である約3〜15%μmRaの溶射肌を使用目的に適する形状精度に仕上げたり、表面粗さなどを修正加工します。耐食性を使用目的とする場合には、溶射皮膜の気孔に封孔材を塗布して浸透させる封孔処理を施す場合もあります。

図3 高速フレーム溶射の施工状況と皮膜断面のミクロ組織

        ◇
 以上、溶射の概略を紹介しました。溶射は、航空機エンジン、産業用ガスタービンにおける耐熱コーティングをはじめ、現在では産業分野において適用が進んでいます。
 また、最近は環境問題から注目されているクロムメッキ代替技術として実用化された航空機のランディングギアや半導体およびフラットパネルディスプレー製造装置分野での静電チャック、内部部品の無効蒸気付着層の保持機能など、新たな分野での応用も広がっています。
 実際の溶射施工には、より専門的な視点から「溶射材料」「溶射方法」および「溶射工程」を総合的に理解しなければなりませんが、本稿が皆さんにとって「溶射」という技術に興味を抱く機会となれば幸いです。

 スルザーメテコジャパン技術開発部/佐々木 光正

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