フレッシュマン講座

溶接・切断(溶断)ガス編

 昨今では中国を代表とするアジアの国々が世界の工場として躍進して来ており、先進技術で世界をリードしてきた日本としては、さらなる「高品質化とコストダウン」の相反する目標を高次元で融合させなければならない時代となりました。
 「もの作り日本」を支える加工技術に鋼板の溶接・切断がありますが、それらの加工に必要不可欠なアイテムとして「ガス」が使用され、重要な役割を担っています。
 高度化する加工技術や、多様化する鋼種に追随するように、「ガス」に求められる性能も、品質向上、効率アップは基より、溶接時のヒューム削減などの作業性改善、またCO2排出量削減に至る環境性能までもが問われているのが現状です。
 今回は溶接用ガスの基礎を中心に、現在の技術動向や切断用ガスについて解説します。
    
 ■溶接用ガス■
 Q 溶接加工には、どのような接合方法がありますか
 A 溶接には、その接合の機構によって、「融接」「圧接」「ろう接」に大別されます。
 「融接」は被溶接材(母材)の溶接しようとする部分をアークやガス炎により加熱し、母材単独あるいは、母材と溶加材とを融合させて溶融金属を作り、これを凝固させて接合する方法で、ガスシールドアーク溶接法が代表的な溶接方法です。
 ガスシールドアーク溶接は、ティグ(TIG)溶接、ミグ(MIG)溶接、マグ(MAG)溶接を代表とする広範囲な溶接法に用いられることから、産業ガスとのかかわりも多岐にわたります。
 「圧接」は接合部へ摩擦やガス炎などによるエネルギーを付与した後、機械的圧力を加えて接合させる方法です。
 「ろう接」は母材を溶融することなく、母材よりも低い融点の溶加材(ろう材)を溶融させ、毛細管現象を利用して、接合面の隙間にいきわたらせて接合する方法です。

 Q ガスシールドアーク溶接に用いられる溶接ガスにはどのようなものがありますか
 A 表1に示すようにガスシールドアーク溶接には様々なガスが用いられ、溶接法や母材にあわせた選定がなされています。代表的な『溶接ガス』には、炭酸ガス(活性ガス)、アルゴン、ヘリウム(不活性ガス)および少量添加ガスとしての酸素、水素などがあります。
 ガスシールドアーク溶接は、アークエネルギーにより溶融した金属が大気中の窒素ならびに酸素と反応するのを防ぐためにアルゴンや炭酸ガスなどを使用し、大気から遮断(シールド)しながら溶接を行います。それぞれの特徴としては、「炭酸ガス」は無色・無臭、不燃性のガスで、大気中に約0・03%程度しか存在しておりません。空気の約1・5倍の重量があり、乾燥した状態ではほとんど反応しない安定したガスです。化学プラントや製鉄所の副生ガスを原料に製造されています。
 「アルゴン」は高温・高圧でも他の元素と化合しない、化学的に極めて不活性で、無色・無味・無臭のガスです。空気中に約0・93%しか含まれておらず、比重は1・38(空気=1)、沸点はマイナス186度。反応性の高い物質の雰囲気ガスとして広く利用されています。
 「ヘリウム」は無色・無臭、不燃性のガスで、大気中に約5・2ppmしかなく、比重は0・14(空気=1)、沸点マイナス269度。化学的にはまったく不活性で、通常の状態では他の元素や化合物と結合しません。理論的には空気から分離抽出できますが、含有量があまりに希薄なため、工業的には天然ガス中に約0・5%前後含まれるものを分離・精製しています。
 「酸素」は無色・無味・無臭のガスで、空気の約21%を占めており、比重は1・11(空気=1)で、沸点はマイナス183度。化学的にはきわめて活性が高く、他のものを酸化する力が強く、多くの元素と化合します。
 「水素」は無色・無味・無臭、可燃性のガスで、比重は0・07(空気=1)と、地球上の元素の中で最も軽いガス。沸点はマイナス253度。また、熱伝導が非常に大きく、粘性が小さいため、金属などの物質中でも急速に拡散します。燃焼性も極めてよく、排気ガスが水分であることから、クリーンエネルギーとして注目を集めています。


表1 溶接ガスの種類と物理的性質

 Q ガスシールドアーク溶接の品質を向上させる溶接ガスはありますか
 A 溶接用ガス(シールドガス)は、溶接方法に合わせて炭酸ガスやアルゴンガス単体で使用したり、アルゴンと炭酸ガスの2種混合ガス、これに酸素を加えた3種混合ガスなど、多くの種類のシールドガスがあり、目的や用途に応じた使い分けをしています。
 ティグやマグなどの溶接法に応じた選択や溶接品質を左右する重要なアイテムとして、様々な業種のユーザーで使用されています。
 ガスシールドアーク溶接は、最もポピュラーな溶接法の一つですが、スパッタの抑制や外観の向上、溶接速度のアップなどを目的として、数種のガスを混合させて使用されますが、母材や溶接法に合わせた選定が重要となり使用に際しては注意が必要となります。一般的な溶接用混合ガスとして、表2(種類と適用材料)のようなものが使用されています。
 例えば、当社の「ハイアコム」は写真1のように、厚板マグ溶接の「高速化」「低スパッタ化」に絶大な効果を発揮させることが可能です。溶接工程におけるコストダウンとは、高速化による「時間短縮」や、高品質にすることで「手直しおよび前工程・仕上げ工程の工数削減」が重要となり、これらをさらに進化させた溶接用混合ガスの開発が現在でも進められています。


表2 シールドガスの種類と適用材料


写真1 「ハイアコム」の効果例

 Q 最新の溶接方法には、どのようなものがありますか
 A 最新の薄板の溶接方法としてガスシールドアーク溶接法以外に、さらに熱エネルギーを集中させ、高品質化(高速、高溶着深溶込み)を狙う、プラズマ溶接、レーザ溶接などが産業界の重要な役割を担っています。プラズマ溶接は、専用のノズルによりアークを拘束して高温化させるとともに、エネルギーを溶接部に集中することにより材料を溶融・接合させる方法です。プラズマ溶接を行なう際には、アルゴンやアルゴンに水素を添加した混合ガスを用います。
 レーザ溶接は、レーザ光をレンズまたは鏡によって局部に集光させ、その光エネルギーが母材に吸収されて、継手部の温度が局所的に上昇し溶融・接合させる方法です。レーザ溶接に用いられるガスは、レーザ光を発信させるガス(励起ガス)とシールドガスがあります。レーザ発振用のガスは、レーザ光の発振方法によって様々な種類があります。炭酸ガスレーザの場合には、アルゴン、窒素、炭酸、一酸化炭素の3種、4種混合ガスが一般的です。


 ■切断(溶断)用ガス】
 Q 鋼板の切断加工には、どのような切断技術がありますか
 A 鋼板の切断加工にも様々な切断方法があります。構造材の切断に使用されている切断加工には、「熱切断」が用いられます。「熱切断」とは熱エネルギーとガスの運動エネルギー、場合によってはガスが持つ化学的エネルギーにより鋼材を溶融し切断することを言います。熱切断の種類としては、以下のような方法があります。
 (1)ガス切断=火炎と鋼材の酸化反応による熱エネルギーと、ガス流体の運動エネルギーを利用。
 (2)プラズマ切断=アーク放電による熱エネルギーとガス流体の運動エネルギーを利用。
 (3)レーザ切断=光による熱エネルギーとガス流体の運動エネルギーを利用。
 近年では高速、高精度切断のため、プラズマ切断やレーザ切断の採用が年々増加傾向にあります。厚板の切断ではガス切断(溶断)が主流で、シャーリング工業組合のデータによると、業界全体の6割をガス切断が占めています。

 Q 鋼板の切断加工は、どのような原理で切断が可能となるのですか
 A ガス切断(溶断)は軟鋼、低炭素鋼の切断など、熱切断では工業的に最も広く使用されており、その原理を説明します。
 ガス切断(溶断)の最大の特徴は、切断部を溶融するための必要なエネルギーを切断部の鉄自信の酸化反応熱により補うところにあり、ガス炎で切断部を発火温度(約900度)に加熱し、そこへ酸素ガスを噴出して、母材の鉄を燃焼しながら切断することができます。
 つまり、ガス切断(溶断)は切断酸素により鉄を燃焼させ、切断酸素気流によりその燃焼生成物と溶融物を吹き飛ばして除去するという二つの作用によって行なわれます。このため、酸化・燃焼しにくいステンレス鋼や、酸化・燃焼しても酸化物(アルミナ)が母材よりも著しく高融点で溶融物となりにくいアルミニウムには適用されません。

 Q 鋼板の切断に用いるガスには、どのような種類がありますか
 A 鋼板の切断加工に用いるガスにも多くの種類があります(表3参照)。ガス切断(溶断)の際に、母材を予熱するための燃料ガスとしては、古くからアセチレンが用いられており、現在ではLPガスが最も一般的に使用されております。その他の可燃性ガスのプロピレン、エチレン、メタンなどや、最近では環境問題も含めて、水素を用いた熱切断も脚光を浴びています。
 溶解アセチレンは無色のガスで、純粋なものは無臭。比重は0・91(空気=1)で、沸点はマイナス84度。カーバイドから製造されるアセチレン自身は不安定で反応性が高い物質であるために、容器中の溶剤に溶解させて安定化させた状態で使用する必要があり、そのために「溶解アセチレン」とも呼ばれています。
 また、LPガス(液化石油ガス)は石油採掘、石油精製や石油化学工業製品の製造過程での副生した炭化水素を液化した発熱量の高いガスで、家庭用ではプロパンガスと呼ばれて広く使われており、工業用、自動車燃料、都市ガス原料として使用されています。
 ガス切断には燃焼ガスとして支燃性の酸素を大量に用います。酸素も無色のガスで、無臭。比重は1・1(空気=1)で、沸点はマイナス183度。高圧ガス容器に充填したものや液化酸素の形態で供給されます。切断の際、鋼材の酸化反応に用いるガスのため純度が切断品質に影響します。しかし、現在市販の高圧ガス容器に充填されている酸素は、JIS K 1101で規定されており、ガス切断を行うには十分な純度となっています。
 補足ですが、ガス切断には、切断吹管や切断火口が機器として必要で、使用ガスの種類、圧力、温度によって、適合したものを安全に十分に配慮して作業しなければなりません。


表3 切断ガスの種類と物性比較 

 Q 最近、鋼板の切断加工で脚光を浴びているガスにはどのようなものがありますか
 A 最近では、水素を用いた熱切断が脚光を浴びています。ガス切断は化学的反応である鉄の燃焼を切断原理に持つことから、切断速度の点では大きな制約を受け、過大な入熱のひずみを発生させるといったことが問題となっております。業界では安価で高精度な切断技術が求められており、水素切断が以下のメリットでこれに応えることのできる切断技術です。
 (1)切断面品質、速度などの切断能力がLPガスに比べて高い。
 (2)熱影響によるひずみが、LPガスに比べて少ない。
 (3)輻射熱の小さな水素を用いることにより、高温作業の熱切断作業環境が改善される。
 (4)切断時に発生するCO2が他のガスよりも低減され、環境に優しい。
 ちなみに、当社は国内最大の水素サプライヤーであり、皆さんの心強いパートナーとして、良質な水素切断加工を提案いたします。

 岩谷産業産業ガス・溶材本部ウェルディング部/土田 和久

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