フレッシュマン講座

溶接治具編2010

 Q 溶接治具とは、どのようなものですか
 A 溶接治具とは、一般に溶接作業をするうえで、溶接する品物(ワーク)を固定するためのものや、ワークの位置決めなどに使用する機械、装置のことを言います。
 表1に示すとおり、主にワークを回転させる回転装置や、溶接ヘッドを移動させる直線装置、溶接走行台車などがあります。また、溶接トーチを保持し狙い位置が微調整できるトーチスタンドや、溶接機と溶接治具を連動させ、簡単に自動溶接システムを構築できる溶接連動制御装置などの周辺機器があり、さらに、現在溶接ロボットを中心としたシステムが各方面で導入されていますが、その溶接ロボットシステム用として使用される各種ポジショナーやスライドベース、2溶接ステーション化を実現するシャトルテーブルなども溶接治具としてあげられます。
 また、最近は作業環境の改善も重要視され、環境機器としては、溶接中に発生するヒュームを回収する溶接ヒューム回収装置などがあります。
 溶接治具を使用することにより、溶接作業の容易化、能率向上、仕上がり精度や品質の信頼性が上がるなどの効果があります。特に、多量生産化には必要不可欠です。

表1 主な溶接治具機械

 Q 回転装置にはどのようなものがありますか
 A ワークの位置決めや円周溶接などを行なうために使用する回転装置には、次のようなものがあります。
 (1)ポジショナー(写真1)
 主に、パイプとパイプ、パイプとフランジなどの円周溶接や、位置決めなどに使用します。ワークは、専用チャックなどでターンテーブル上に固定します。テーブルの回転、傾斜機能を備えており、溶接姿勢を任意に設定することができます。例えば、パイプとフランジの円周溶接の場合、ターンテーブルを傾斜させることにより溶接するうえで最適とされる下向き溶接姿勢が得られます。
 ポジショナーには様々な機種がありますので、ワーク形状や溶接条件、搭載重量、重心偏心や重心高さなどを考慮して最適なものを選択します。

写真1 ポジショナー

 (2)ターニングロール
 タンクやパイプ、大型円周加工物の溶接、切断、塗装などの作業に使用します。一般に、駆動台1台、従動台1台からなり、それぞれにローラが2個付いています。ワークをローラの上に載せ、ローラとワークの摩擦によりワークを回転させ、円周溶接や位置決めなどを行ないます。システム化の例としては、直線装置のマニプレーターと組み合せて、パイプや圧力容器の円周または縦継溶接を行なうパイプ円周/縦継自動溶接装置などがあります。
 このほかにも、回転装置には、回転機構のみのターンテーブルやサイドテーブル、テーブルが上下昇降する昇降式3軸ポジショナーなどがあり、また、小径管や長尺なワークの溶接用には、中空式ポジショナー、曲がり管やパイプとエルボ(チーズ)管などの溶接には、中空開放型回転装置(通称=オープンチャック)が適しています。

 Q 直線装置や走行台車としては、どのような種類のものがありますか
 A 直線装置としては、代表的なものとして、次のような溶接治具があります。
 (1)マニプレーター(写真2)
 マニプレーターは、「ブーム」の先端に、溶接用ヘッドおよび溶接用トーチを搭載し、ブームが上下昇降および前後移動することによって、溶接部に対しての正確な位置決めを行なうものです。また、ブームの前後移動による直線溶接にも使用します。このため、マニプレーターには、機械的強度、特にブーム先端で作用する力に対しての剛性が求められます。そこで、剛性、安定性、直進性がよく構造的にバランスの良いセンターブーム(2本のコラム〈柱〉の間でブームを保持する)方式のマニプレーターを選択することが望まれます。
 (2)薄板・パイプ突合せ溶接装置「エアークランプシーマ」
 エアークランプシーマは、長尺の薄板直線突合せ溶接や、パイプを作るために薄い板をベンディングロールなどで曲げたあと、縦継ぎ溶接を行なうために用いられます。薄板の溶接では、溶接の熱影響でワークが波打つ(縦収縮による挫屈変形)ことがあります。エアークランプシーマを使用すると、それらのことが最小限に抑えられ、また、ほとんどの場合、仮付けなどの手間が省け簡単な操作で良好な溶接結果が得られます。
 (3)汎用直線溶接ロボット
 直線の自動溶接に必要なスライダ部と制御装置のみの標準構成で、取付けベースや自作の治具などと組み合わせて容易に直線の自動溶接が行なえるもので、いわゆる溶接システムのひとつのパーツともいえるスライダーロボットです。JOB登録機能やタック溶接機能、溶接開始位置教示機能など多くの特徴を備えており、高品質・高能率な直線溶接が簡単に実現できます。また低価格設定により、コスト面においても安心して導入できます。
 (4)溶接走行台車
 溶接走行台車には、大きく分けて、レール上を走行するものとレールを使用せず、立板や開先を倣いながら自走するものの2種類があります。
 自走するタイプのうち、特に普及しているのが、すみ肉溶接用走行台車です。これは、立板を倣いながら走行するもので、主に造船や橋梁の補強リブ(ロンジやスティフナと呼ばれています)を溶接する場合に使用されます。溶接開始後、自動的に終了するので作業者は一人で複数台の走行台車を使用でき、作業能率が大幅に向上します。

写真2 マニプレーター

 Q 溶接治具の周辺機器としては、どのような種類のものがありますか
 A 周辺機器としては、次のものがあります。
 (1)トーチスタンド(写真3)
 トーチスタンドは、作業者の手の代わりに溶接トーチを安定して保持するため、振れがなく均一な溶接ビードが得られます。また、トーチの位置決めが容易で繰り返し作業が行なえるため製品精度の向上と量産化が図れます。
 (2)溶接連動制御システム
 既設の溶接機とポジショナーなどの溶接治具を連動させ、トーチスタンドなどと組み合わせて簡単に溶接の自動化を行なうために必要な制御装置です。種類としては、タイマー式や回転装置にリミットスイッチやフォトマイクロセンサ、エンコーダなどを組込み確実な1回転検出を行なうデジタル式などがあり、さらに、ワークの直径と溶接速度を入力するだけで適正な溶接回転数が得られるタイプも用意されています。
 (3)溶接線倣い装置
 センサが溶接トーチより先行し、溶接線(実際に溶接する位置)に接触して現物倣いしながら溶接トーチとのずれを自動的に検知・補正するもので、良好な溶接結果と自動溶接省力化に役立ちます。
 また、仮付けの検知やワークの終端検出が行なえる機能を装備した機種を選択すると、より確実な自動溶接が行なえます。
 (4)ウィービング装置
 溶接トーチを溶接進行方向に対し、直角に往復運動させる溶接施工方法で、タイプとしては、振子型や直線移動型があり、立体的な動きをする特殊な機種も製作されています。
 ウィービングの目的としては、溶接部材側のアーク発生点を移動させることによるアーク熱の拡散、溶接金属の拡散、アーク発生点の移動制御などがあげられ、そうすることにより「溶込み不良の防止および溶込み形状の安定化、ビード形状、外観の改善、溶接パス数の減少、スパッタの減少などの効果が得られます。
 (5)ペールパックワイヤ送給補助装置
 ペールパックワイヤを使用するとき、ワイヤ送給時のフレキシブルコンジットケーブル内の摩擦により発生する送給抵抗を軽減し、ワイヤの安定送給を目的とした装置で、さらにワイヤの湾曲を一定状態に矯正し、ワイヤ振れを少なくするワイヤ矯正装置とセットで使用すると、より一層ワイヤ送給の安定化が実現できます。

写真3 トーチスタンド

 Q ロボット周辺機器にはどのようなものがありますか
 A ロボット周辺機器としては、次のようなものがあります。
 (1)ロボット用ポジショナー(写真4)
 高い停止精度を有したポジショナーで、タイプとしては回転のみのインデックステーブルや傾斜機能を追加した2軸ポジショナータイプ、昇降機能も装備している3軸タイプなどがあり、そのほかにもいろいろな機種が標準で用意されています。
 (2)ロボットスライドベース
 溶接ロボットの動作範囲には限度があり、それ以上の大型ワークを溶接するときは、ワークを移動するか溶接ロボットを移動させて対応します。ロボットスライドベースは、主に大型ワークを溶接する場合や2ステーションの溶接システムを構築するときなどに使用し、タイプとしては、定置型やロボット天吊り型、壁掛け型などがあります。
 (3)ロボット用トーチノズルクリーナー
 アーク溶接用ロボットの溶接トーチのノズル内に付着したスパッタを自動的に除去し、スパッタ付着防止液を自動的に塗布する装置です。さらに、ワイヤ先端部をカットし、常にワイヤ突出し長さを一定に保ちアークスタートを良くするワイヤカット機能付きタイプもあります。
 ロボット周辺機器には様々な機種が用意されているので、安全と効率を考えた最適なシステムにするには、ロボットシステムをトータル的に提供できるシステムメーカーで構築することが最善です。
 また、最近では、YAGレーザなどのレーザ溶接・切断システムの需要が増えてきており、より高度で生産性の高いロボットシステムが要求されています

写真4 ロボット用ポジショナー

 Q 環境機器としては、どのようなものがありますか
 A 環境機器としては、溶接ヒューム回収装置があります(写真5)
 近年、溶接作業などにおいても作業環境の改善が求められ、特に、溶接中に発生するヒュームを回収するための、より実用的で確実な対策が必要とされています。溶接ヒュームは、人体に有害であるばかりではなく、溶接ロボットや周辺機器装置にも悪影響を及ぼします。たとえば、溶接ロボットや自動機のわずかな隙間からヒュームが侵入し、可動部分を傷めたり、ワークのセット治具に溜まり、狙い位置がずれ、溶接不良を招くといったおそれがあります。
 この対策は、溶接ヒューム回収装置(特に局部吸引タイプ)を導入し、効率良く溶接ヒュームを回収することが最適手段と考えられます。人体にも機械にも良い環境を提供することが、システム化するうえでは重要であると言えるでしょう。
 以上、溶接治具の種類について代表的なもののごく一部を紹介してきました。最近の溶接作業は、複雑化、軽薄化する被溶接物が多く、その形態は、ますます多様化してきています。特に多品種少量生産が増加し、そのような生産システムを満足させるためには、今後も溶接治具が必要不可欠なものとなってきます。

写真5 溶接ヒューム回収装置

 マツモト機械経営管理部/泉 忠

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