フレッシュマン講座

肉盛溶接編2010

 Q 肉盛溶接とはどのような溶接方法ですか
 A 肉盛溶接とは溶接によって様々な金属材料(母材)の表面に溶接金属を積層する方法です。

 Q 肉盛溶接の目的にはどのようなものがありますか
 A 肉盛溶接は、その用途に応じた金属を母材表面に肉盛することで性能を向上させることが可能です。長期間の使用により摩耗した部分の復元を目的とした肉盛復元や母材の材質よりも耐磨耗性、耐熱性、耐食性を向上させ使用期間を延ばすことを目的とする表面改質があります。

 Q 表面改質技術には、どのような方法がありますか
 A 溶接、溶射、メッキ、蒸着、浸炭、窒化、焼入れなどの方法があります。図1に表面改質技術の分類を示します。溶接は改質層を数ミリから数十ミリまで肉厚をつけることが可能です。また溶接法によって母材への希釈率が異なり、1回で肉盛できる肉厚も異なります。
 溶射では改質層の厚みが最高で数ミリ単位となり、溶接に比べると改質層の厚みが薄くなります。しかし、肉盛溶接では溶接できないセラミックス、プラスチックス、サーメットなどの材料も施工可能です。

図1 表面改質技術の分類

 Q 肉盛溶接による母材復元方法を教えてください
 A 母材復元方法の一例を挙げますと、復元を行う前には溶接によって復元が可能な材質であるか見極め、使用履歴、損傷に至った経緯、程度などを確認します。溶接が可能な材料であることが判明した時点で、溶接材料の選定、施工手順を検討し、溶接前加工に移ります。
 損傷状態を観察し、油脂、異物のコンタミが認められるようであれば、焼成や洗浄を行い除去します。その後、割れの有無、範囲を確認しグラインダーやガウジングで除去します。この時、肉盛が行ないやすいような形状に整えます。
 次に母材の材質に応じて母材の加熱(予熱)を行います。炭素鋼など硬化性(炭素当量)の高い材料等は適切な予熱が必要となります。表1に炭素当量の計算方法と予熱温度の目安を示します。
 肉盛材料は通常、母材同等成分あるいは近似成分を選定しますが、炭素当量の高い母材の場合は割れが発生しやすくなるため、硬化元素の少ない軟質な肉盛材料を選択し、表層付近まで肉盛を行います。その後、摩耗原因に応じて適切な肉盛材料の溶接を行ないます。
 溶接完了後、材質に応じて溶接後熱処理を行い、溶接時の残留応力等を緩和させます。

表1 母材炭素相当量と余熱温度の目安

 Q 磨耗対策の肉盛材料にはどのようなものがありますか
 A 磨耗に至る原因は様々で車輪や軸受けに見られる金属疲労が原因の転がり磨耗、金属間同士の接触によって生じる金属間磨耗、土砂、粉粒体などが原因で生じる土砂磨耗、腐食環境における部品の腐食が原因による腐食磨耗、高温中の酸化が原因による高温酸化磨耗、繰り返し衝撃が加わることによる衝撃摩耗等があります。しかし、大半の摩耗は、これら複数の摩耗要因が重複しています。
 したがって、それぞれの磨耗原因に対応した肉盛材料を選定する必要があります。表2に当社CO2フラックス入りワイヤ製品群の一例を紹介します。
 パーライト、ソルバイト系の肉盛材料は軟鋼に炭素、クロム、モリブデンなどの元素を少量添加することによりフェライトの析出を抑制し、硬さを上昇させたものです。
 硬化肉盛材料の中では硬さが低いのですが、延性があり機械加工性が良好なことが特徴で、転がり摩耗、軽金属間摩耗等に適しています。
 マルテンサイト系は低クロムマルテンサイト系、13%クロムマルテンサイト系などに分かれます。前者は炭素、クロム、モリブデンの添加量を増加させ硬化を図ったものです。他にバナジウム、タングステン、ボロンを加えることによってさらに硬化を図ったものもあります。これらは硬さが高いため、金属間摩耗や土砂摩耗に適しています。
 13%クロムマルテンサイト系はクロム量を13%添加することにより耐熱性が向上します。さらにニッケルを数%添加することにより耐食性も向上します。高温環境での磨耗や腐食環境での耐食性に適しています。
 炭化物系は溶着金属中に高硬度の炭化物粒子を分散析出させることによって耐熱性、耐磨耗性を大きく向上させた肉盛材料です。代表的なものとしてクロム炭化物、ニオブ炭化物、モリブデン炭化物、バナジウム炭化物、タングステン炭化物などがあり、それぞれの粒子単体の硬さはHV1500を超えます。
 ただし、溶接金属の硬さは上昇しますが割れ感度が高くなる欠点があります。13%マンガンオーステナイト系は肉盛したままの状態では硬さが低いのですが、衝撃力を加えることにより、硬さが向上しますので、繰り返し衝撃が加わる環境に適しています。

表2 摩耗形態と硬化肉盛材料

 Q 金属間の焼付きを防止するにはどのような肉盛材料を溶接すればいいですか
 A 金属間の焼付き防止には、いずれか片方の材料に銅合金が主に用いられます。銅は熱伝導率が高く、熱が拡散しやすいため、焼付き現象が起きにくくピストンやシールリングなどの肉盛に用いられます。ただし、純銅は軟らかく、耐磨耗性が低いため、主にアルミニウムやニッケルが添加されたアルミニウム青銅やリン、スズが添加されたリン青銅などの銅合金が用いられます。鉄鋼材料に肉盛するケースが大半ですが、溶接時の溶込みが深くなると、割れが発生する場合があります。
 これは銅と鉄の固溶限が低いことが原因です。過大な溶込みによる溶接で銅に溶込んだ鉄が析出相として偏析したり、鉄に溶込んだ銅が、粒界侵入して機械的性質や耐食性が低下する問題が生じることがあります。またアルミニウム青銅の溶接金属中に鉄が過剰に溶込むと遊離鉄が発生し、結果、著しく硬度が上昇し溶接金属に割れが発生することもあります。
 写真1にアルミニウム青銅肉盛金属中に遊離鉄が発生した状態の組織を示し、写真2にSUS304のオーステナイト粒界に銅が侵入した組織を示します。これらの対策としては、溶接入熱を低減する必要があります。
 また、銅とステンレスの溶接などでは中間層にニッケルを肉盛(下盛)することで粒界侵入の抑制に効果的です。


写真1 


写真2

 ナイス技術部門技術グループ/大西 武志

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