フレッシュマン講座

レーザ溶接編2010

 Q レーザとは何ですか
 A レーザ(LASER)とは、光を増幅して、時間的、空間的に単一な特性(コヒーレント)を持つ光を発生させる装置、もしくは、装置によって得られる人工光(ビーム)をさします。名称は、Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation(輻射の誘導放出による光の増幅)の頭文字に由来します。X線より短い光から遠赤外線までの帯域がレーザ、ミリ波より長い帯域での電磁波の増幅はメーザ(MASER)に区分されます。2010年は、1960年にアメリカのメインマン教授による世界初のレーザ発振成功から50年目にあたります。現在、レーザ光は、医療、工業、情報通信、娯楽など、幅広い分野に応用されています。

 Q レーザ加工とは何ですか
 A レーザ光を用いた加工のことです。レーザ加工は、大きく「熱加工」と「非熱加工」に分類できます。いずれの加工も、レーザのコヒーレントな特性を利用して、レーザ光を加工物に照射して加工を行います。適切なレーザ加工を行うためには、レーザ光の特性(波長、発振形態など)の理解や集光光学系の選択、加工条件の設定など、多くのノウハウが必要になります。
 主な熱加工としては、溶接や切断を挙げることができます。非熱加工としては、薄膜除去などの微細加工があります。
 レーザ加工は、加工ノウハウや設備コストの点から、敷居の高い加工技術と言えます。しかし観点を変えれば、他者との差別化を図るツールとして非常に有効かつ強力な技術にもなります。

 Q レーザ溶接とは何ですか
 A レーザ光による熱加工の一つです。金属表面にレーザ光を集光して過熱すると、瞬時に溶融が起こり、プラズマ化した金属の蒸発反力(膨張力)で溶融池に凹みが生じます。生じた凹み(これをキーホールと呼ぶ)によってレーザ光は凹みの内壁で多重反射を繰返して凹みの底部に集光し(レーザの自己集光作用)、キーホールはさらにレーザの照射方向へと成長を続け、深い溶融層を形成します(図1)
 レーザ溶接は、極所加熱による高密度エネルギー加工であり、高速かつ低入熱で溶接できることが特徴です。電子ビーム溶接と同様に、ひずみや変質の少ない溶接が大気中で施工可能です。また、溶加材(フィラーワイヤ)の使用やアーク熱源との複合化(ハブリッド溶接法)が可能な点は、電子ビーム溶接では困難な応用技術です。

図1 キーホール現象の概念と実際の観測写真

 Q ハイブリッド溶接法とは何ですか
 A 既存の溶接法(アーク溶接が主である)にレーザを重畳して溶接する方法です。アーク溶接を補足するためにレーザを重畳するのか、レーザを補足するためにアークを重畳するのか、明確なコンセプトを持って条件の最適化を行う必要があります。
 私見になりますが、アーク溶接の安定性を改善するのであれば、レーザの出力は励起プラズマが発現する出力で(1キロワット前後)で十分です。一方、レーザ溶接における隙間裕度の改善が目的であれば、ハイブリッド溶接よりも、ホットワイヤ法が適切です。
 ホットワイヤ法は、融点近い温度まで加熱したワイヤを、レーザ照射点に供給する方法です。ミグ溶接とのハイブリッド溶接よりも入熱量が低減でき、溶融現象も安定して、高い溶接品質が確保できます。

 Q 溶接用にはどのようなレーザがありますか
 A 炭酸ガスなどを混合したガスを励起媒体とした炭酸ガスレーザ(CO2レーザ)と呼ばれる波長10・6ミクロンの気体レーザと、YAG(イットリウムを主体とし、アルミニウム、ガーネットなどを添加元素とする)結晶を励起媒体とする固体レーザ(波長1・06〜1・03ミクロン)の2種類が一般的です。両レーザは、ビーム特性やレーザ光の波長が大きく異なります。特に、レーザ光の波長が大きく異なる点は、加工特性や加工装置の構成に大きな差異を与えます。
 炭酸ガスレーザは、名前が示す通り、励起媒体が気体であり、励起媒体の熱ひずみによるビームの劣化が少なく、極めて高輝度なレーザ光を得ることができます。レーザ光は、ガラスに吸収される波長帯で、光ファイバー伝送が不可能になります。そこで反射ミラーを用いて加工点まで導光する必要があり、加工機は大型化、複雑化する傾向にあります。ビームの強度分布は、ガウスモードに近く、バリやエッジ垂れの少ない切断加工が可能になります。
 YAGレーザ(ディスクレーザ、ファイバーレーザなども含む)は、波長が約1ミクロンであり、光ファイバーによる伝送が可能です。設備構成の自由度が高く、多関節ロボットに溶接トーチを組み合わせ、三次元形状の加工も容易に実現できます。
 炭酸ガスレーザよりもビーム品質が劣り、厚板の切断品質には不適な面もありますが、高反射材の溶接などには欠かすことのできないレーザです。励起媒体の結晶の形状をディスク型(ディスクレーザ)にする改良や、ポンピン光の輝度向上、ビーム品質は年々向上しています。近い将来、厚板の高品質切断にも適用可能になるでしょう。
 半導体レーザによる溶接は、YAGレーザの励起用光源として使用されている半導体レーザを、レーザ溶接に直接に用いる手法です。初期の装置は、複数のスタックをパッケージ化した構成で、パッケージした筐体をロボットに固定して加工する構成が主体でした。今日では、ファイバー伝送可能な製品が中心で、YAGレーザと同様な設備構成で加工機を構築できます。ビーム品質はディスクレーザよりも劣りますが、ランプ励起YAGレーザと同等のビーム品質が得られるため、通常のレーザ溶接ならば、適用可能です。

 Q レーザによる特徴的な加工法はありますか
 A リモート溶接法は、焦点距離の長い集光光学系を用いて溶接するレーザ加工方法です。コヒーレントな光の特性を利用した、レーザならではの溶接法で、ミラー・スキャン法とロボット・スキャン法があります。
 ガルバノ・ミラーでレーザをスキャンする方法がミラー・スキャン法で、ロボットの動作で焦点距離の長い溶接トーチを振り、溶接する方法がロボット・スキャン法です。ワークに接近して溶接する通常のレーザ溶接と異なり、溶接トーチと治具やワークとの干渉に制限を受けることなく溶接できる点は、両方の手法に共通です。異なる点は、設備の構成であり、スキャナー光学系は高速に多点溶接が可能です。
 一方、ロボット単体によるリモート溶接は、多点溶接の際のエアカット時間を大きく圧縮することが、ロボットの動作制御上困難になります。しかしリモート溶接を安価に実現できる点は大きなメリットであり、実験機としても最適と考えます。
 リモート溶接法は、一つのシステムで溶接条件を調整することで、切断加工も可能とします。レーザ照射によって発生するレーザ励起プラズマの蒸発反力で溶融金属を除去して切断加工します。リモート溶接とリモート切断の違いは、加工条件のみとなります。よって、溶接と切断を一つのシステムで施工することが可能になります。
 つまりリモート加工法は、生産性向上とコスト低減に大きく寄与できるレーザ独自の加工技術と言えます。
 リモート加工法は、生産性向上に有効な手段ですが、その実現には、システム構築がキーポイントになります。ロボットとスキャナーの協調動作により、高効率・高精度なリモート溶接が実現できます。
 ロボットと光学系が協調しながらレーザ加工する状況を「On‐the‐fly」(オン・ザ・フライ)と呼びますが、構成要素であるロボットとレーザ発振器、そしてレーザ加工光学系が高い次元でシステム化されていることが不可欠で、ロボットの精度や剛性も重要です。このためドイツでは、リモート溶接システムとしては、KUKAとトルンプによるシステム構築が一般的です。
 加工時に注意すべき点は、金属プラズマやヒュームなどによるレーザ光の屈折散乱に起因する接合不良です。リモート溶接は、長焦点の集光装置を用いるため、金属プラズマやヒュームによりレーザ光が大きく屈折散乱して、溶融現象が大きく変化します。このためトルンプのスキャナー光学系には、特許取得済みのプロセス・ジェットと呼ぶガスノズルが付属しており、金属プラズマやヒュームを除去し、安定したリモート溶接が可能なよう工夫されています。

 Q レーザ溶接にデメリットはありますか
 A 最初に述べましたが、加工ノウハウに起因する敷居の高い点がデメリットと言えるでしょう。レーザ溶接の実用化に関しては「溶接条件30%、治具70%」という言葉があります。これは生産現場にレーザ溶接技術を導入するために必要な労力の割合です。溶接条件をほぼ確立できても、生産現場にレーザ溶接を導入するには、治具の開発がさらに必要であり、開発力が問われます。
 レーザ溶接、特にリモート溶接などを実用化する際に工夫すべき点は、レーザ溶接に適した製品設計を行うことです。従来の溶接方法を前提とした部品設計で、レーザ溶接を適用しようとしても大きな効果は期待できません。非接触加工、一方向からの溶接など、レーザ溶接独自のキーワードで設計法を再検討することをお薦めします。レーザ溶接のメリットは、そのデメリットを克服したときに他者との大きな差別化が得られる点にあることを強調します。

 Q レーザ発振器の選定はどうやって行いますか
 A レーザ溶接の特徴は、母材同士が融合することにあります。よって部品の板厚から、どのくらいの溶け込み深さが必要かを検討し、タクトタイムなどと溶接長から、それに必要な溶接速度を把握します。例えば、板厚1・5ミリの鋼板を重ね溶接することを考えるとき、グラフ(図2)の破線が、3ミリの溶込みを示しています。
 つまり各曲線と破線の交点が、レーザ出力毎の溶接速度となります。ことため分速5メートルの溶接速度が必要ならば、出力2キロワットのレーザ発振器では不十分ですが、同4キロワットであれば十分なことが分かります。

図2 レーザ出力と溶接速度

 Q CWレーザによる溶接とパルスレーザによる溶接の違いは何ですか
 A CWレーザは、シーム溶接を高速で施工できる点が長所です。一方、キーホールの変動によりスパッタが発生する場合があり、入熱量も比較的多いため、電子部品などの微小な溶接には注意が必要になります。
 パルスレーザは、溶接速度が繰り返し数に依存するため、高速溶接は困難になります。しかし波形の設定により、スパッタの防止や金属光沢のある滑らかなビード外観が得られるなどの特徴があり、装飾品などの溶接に多く用いられています。

 Q レーザ溶接の品質管理にはどのようなものがありますか
 A レーザ溶接の品質管理は次の3段階に区別できます。
 ▽溶接前(プリ・プロセス)=溶接部の開先の位置や隙間などの計測モニター
 ▽溶接中(イン・プロセス)=溶接中の散乱光やキーホール現象のモニター
 ▽溶接後(アフター・プロセス)=溶接後のビード形状の計測モニター
 現在、技術的には、このすべてがモニター可能となっており、テーラード・ブランク材の溶接装置などで実用化されている事例もあります。特に溶接中にキーホールなどの変化をモニターすることは、溶接不良を的確に判別する上で有効です。しかし材質や開先形状などにより、調整作業を必要とし、普及には時間が必要になるでしょう。今後の目標は、得られた情報を発振器にフィードバックして、レーザの出力やパルス波形などを能動的に制御することが懸案になっています。
    ◇
  おわりに
 ドイツ人がいつも感嘆するものに、日本料理があります。量は少量ですが、様々な食材を実に多様な調理法で魅せてくれます。味だけでなく、目でも楽しませる料理は、世界でもそう多くはありません。また、国外から来た食品も、日本人は繊細な感覚で独自に磨き上げます。日本のビールはその好例でしょう。
 日本の製造業の強さは、緻密な作りこみや独自の美的感覚による商品化にあるのではないでしょうか。レーザ加工と日本人のものづくりは、欧州の事例とは異なる分野や利用法で開花すると、私は考えています。レーザ加工は単なる手段です。重要な点は、アプリケーションの開発能力であり、日本産業界が優れている分野の一つです。レーザ加工でこんなことができないか……記事を読んだ方からそんなご連絡を頂けたら幸いです。
 
 トルンプレーザ営業部/齋藤 茂樹

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