フレッシュマン講座

電子ビーム溶接編2010

 金属部材の接合する部分を溶融させて一体化する溶接方法は「融接法」とよばれ、代表的なものにアーク放電のエネルギーを利用するアーク溶接があります。電子ビーム溶接は熱源として高速に加速された電子の運動エネルギーを利用するもので、レーザ光とともに高エネルギー密度熱源と呼ばれています。
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 Q 電子ビーム溶接の原理を教えてください
 A 電子ビーム溶接機の概念を図1に示します。タングステンなどの電子放出能力の高い金属でできた陰極を加熱すると熱電子と呼ばれる電子が放出されますが、この電子を陰極と対向する陽極との間に数十キロボルトから150キロボルト程度の高電圧を印加し、電子を加速すると細い電子の流れ(ビーム)となって高速で被加工物(ワーク)に衝突します。
 この加速電圧が60キロボルト以下を低電圧型、100キロボルト以上を高電圧型と分類しています。そして電子はワークの中に進入していくのですが、衝突によって電子の持つ運動エネルギーが熱エネルギーに変換されてワークが加熱されます。その熱を利用して溶接が行われます。

図1 電子ビーム溶接の概念

 Q キーホール溶接とは何ですか
 A 電子ビームは直径0・2ミリ程度に集束されているため、エネルギー密度は非常に高く、瞬時に溶融・蒸発が起こり、その結果ビーム照射部に深い穴が形成されます。これをキーホールと呼んでいます。
 ビーム照射による穿孔作用は、さらにビームの照射時間の経過とともに深くなっていきます。そして図2に示すように、ビームの移動にともない、穿孔された部分に溶融金属が流れ込み、その後凝固して溶接ビードが形成されます。
 このようなメカニズムで溶接が進行する方法をキーホール溶接といいます。レーザ溶接においても同様のメカニズムで溶接が行われますが、レーザ溶接の場合はレーザ光がワークの極表面層で吸収されて熱に変換されるところが電子ビームと違いです。

図2 キーホール溶接のメカニズム

 Q エネルギー密度はどれくらいになりますか
 A 一般に電子ビームやレーザ光を集束すると106〜109W/平方センチくらいになり、アークの場合に比べて1000倍程度集中度が高くなります。さらに高ピークパルス値のビームを利用すれば蒸発現象が支配的になり、微小な穴あけ加工ができるようになります。航空機エンジンのタービンブレードの穴あけに利用されています。
 なお電子ビーム溶接では通常ワーク表面上にビームの集束位置(焦点)をあわせた時に最大溶込みが得られますが、レーザ溶接ではややワーク内部に入ったところに設定します。
 また用途に応じてビームの焦点位置をずらすことにより、ワーク表面上でのビームのエネルギー密度を任意に調整できますので加熱、溶融、蒸発など種々の加工ができます。

 Q 電子ビームの制御はどのように行うのでしょうか
 A 図1に示したように熱電子放出により発生した電子はそのままでは発散してしまいますので、取り出したビーム流を集束レンズ(電磁界コイル)により中心部にとじこめます。そして真空管のグリッドに相当するウェネルト電極にバイアス電圧を印加すると、その大小により電子ビームの電流値を制御することができます。
 なお図中に示す偏向レンズは取り出した電子ビームをワーク表面上で二次元的に高速で走査させるものですが、溶接欠陥の防止や、複数個所同時溶接や多数個部品の同時溶接などに利用されています。さらにいろいろなパターン制御が自在にできるので、マーキングや焼入れに利用されています。

 Q どれくらいの出力で溶接するのですか
 A 標準的な電ビーム溶接機は一般に6キロワットクラスがよく使用されています。装置の大きさ、設置面積、溶接能力などの点から最もコストパフォーマンスがよいといえます。自動車部品などの量産に使用されている溶接機の一例を図3に示します。
 溶接能力は図4に示すようにステンレス鋼の溶接では、溶接速度1メートル/分、出力6キロワットで、約18ミリの溶込みが得られます。またアルミニウムや銅のような熱伝導のよい材料(レーザ溶接では困難)の溶接も容易にできます。


図3 量産型電子ビーム溶接機


図4 電子ビーム出力と溶込み深さ

 Q 真空中で加工するということですが、なぜ真空にする必要があるのですか
 A 電子は質量が大変小さく軽いために、大気中では酸素や窒素、水蒸気などの分子と衝突して、散乱したり減衰したりするのでワークに到達エネルギーが確保できず溶接が不可能です。また電子の衝突によりX線が出るので特に高電圧型の場合には安全のために鉛などでカバーする必要があります。
 したがって真空排気した加工室内で溶接することにより電子ビーム溶接が可能になるのです。
 真空度といっても通常は6〜7Pa(大気圧の1万5000分の1程度)であり、真空排気に必要な時間は図3に示した量産機では10秒程度です。月産4万個程度の生産に使用されています。
 また真空中の加工では溶融金属が凝固冷却するまでに酸化や窒化されることがなく、活性金属の溶接にも有利です。

 Q アーク溶接と比べて、電子ビーム溶接の特徴は何ですか
 A アーク溶接では溶融部分が熱伝導で拡大していくので溶込み深さと溶込み幅の比(アスペクト比)が1程度です。図5(a)に溶接ビード断面形状を模式的に示します。このようなビード断面形状を熱伝導型と呼びます。
 これに対して、電子ビーム溶接では10程度とビード幅の10倍にもなる深い溶込みを持つ特徴的な断面形状になります。これをキーホール型といいます。つまり同じ溶込み深さを得るのに必要な入熱が少なくてすむので、その分だけ溶接変形や材質変化が少なくなります。図5(b)の比較写真をみても変形量の違いが明らかです。また溶込みの断面形状は釘を打ち込んだような形状からネイルヘッド型とも呼ばれています。
 電子ビーム溶接の特徴を整理すると次のようになります。
 (1)厚板のワンパス溶接が可能。アーク溶接では数十層の多層盛り溶接が必要な厚鋼板(150ミリ)のワンパス溶接例があります。
 (2)溶接変形が少ない、残留応力が少ない。そのために精度確保のための溶接後の機械加工が不要となり、工程の短縮、コスト低減が可能です。
 (3)真空中の加工であるので、シールドガスは不要です。チタンなどの活性金属も酸化、窒化等のない高品質溶接が可能です。
 (4)電子ビーム溶接は溶接が難しい材料に適用できます。例えばレーザ溶接では金属表面の反射や高熱伝導性のために溶接が困難なアルミニウムや銅の溶接、タングステン、モリブデンなどの高融点材料の溶接、また銅とステンレス鋼などの異材溶接などです。
 (5)ビームの高速偏向ができるので、照射パターンの制御により溶接品質の向上が図れます。

図5 ビード断面形状と溶接変形 

 Q どのような分野で適用されているのですか
 A もともと電子ビーム溶接は特殊な材料を使用する原子力産業で適用されたのをはじめとして、その後宇宙・航空関連産業へと利用範囲が広がってきましたが、近年では自動車産業で最も多く使用され、自動変速機用ギア部品、エンジン周りの部品やその他電装品の溶接に利用されています。
 これは溶込み深さはそれほど必要ではないがひずみを極力出したくないという要求にこたえたもので、電子ビーム溶接の特徴を最大限生かした成功事例です。
 また近年自動車機器の高温・振動環境下での信頼性向上という観点から、接点接合においてはロウ付けやはんだ付けから溶接に置き換えることが進められています。
 電子ビームの高速偏向というメリットを生かして水晶振動子などの電子デバイスパッケージの封止溶接や圧力センサー、ベローズ、ダイヤフラムなどの微細精密接合への適用も行われています。
 一方、大出力を利用したものでは宇宙、航空、原子力関連機器の大型構造部品の高精度・高品質溶接が行われています。

 Q 溶接品質に問題はありませんか
 A 電子ビーム溶接ではキーホール溶接という特徴的なメカニズムにより、溶接されるので、キーホール内部、とくに深部で発生した金属蒸気や溶融金属中のガスが閉じ込められてブローホールが発生しやすくなります。ミクロなブローホールは強度に大きな影響を与えませんが、何個か集まったものや大きく成長したものは切欠きとなりますので、強度が低下することがあります。このような場合はビーム電流のパターン制御やビームオシレーション(高速偏向)などにより、発生を抑制することが可能です。
 また材料に含まれる低融点不純物の影響で溶融金属の凝固時に高温割れが発生することがあります。このような場合にはビームを微小にオシレートさせて不純物の排出促進を行います。また溶接部が硬化すると、冷却過程での溶融金属の収縮により割れが生じる場合がありますが、その防止のために低電流の電子ビームまたは焦点をはずしたビームを溶接部に当てて予熱・後熱などを行うこともあります。

 Q 溶接以外にどのような利用法がありますか
 A 最近の事例としては表面改質への適用が期待されています。電子ビームはきめ細かな入熱制御や高速でビームを偏向することができるため、部品の部分的な表面溶融、合金化、焼入れなどの改質加工ができます。
 表面改質加工を大きく分類すると
 (1)表面溶融を伴わないで材料の相変態を利用する加熱加工
 (2)表面溶融を伴わないで異種材料の皮膜を形成させる加工
 (3)材料表面を薄く溶融させて異種材料との混合層、合金層を形成させる加工
 (4)極表面層を溶融させて面粗さを改善する加工、などがありますが、溶接の応用分野としては(1)、(3)、(4)と考えてよいでしょう。
 (1)は一般に焼入れと呼ばれているもので、ビームの焦点をずらしてエネルギー密度を低くして照射するものです。
 電子ビーム焼入れでは冷却剤を用いなくてもよく、熱が部材内部に拡散する自己冷却作用を利用していますので、後処理が不要です。さらにビームを全面照射ではなくドット状に照射することにより、ひずみを低減することが可能です。
 とくに最終仕上げされた精密部品の部分焼入れでは部品精度の確保という観点から炉中焼入れのように全体加熱をしないで、必要な部分のみを加熱する部分焼入れが望まれます。
 (2)は真空蒸着やスパッタリングという加工法に相当するものです。
 (3)は合金化と呼ばれる加工法で、たとえばアルミニウム材の一部に銅を溶融・混合させて硬化層をつくり、耐摩耗性を向上させています。また潤滑特性に優れた材料を合金化したり、耐食性、耐熱性に優れた材料を合金化させることも行われています。
 (4)の表面溶融加工では金型切削加工部の鏡面化加工や梨地加工などの高付加価値加工が可能です。
 電子ビームを機械加工面に短時間照射すると凹凸部の極表面層が溶融し、表面が平坦化します。このような平坦化領域を連続的に形成していくと、機械加工面のままの状態の10分の1程度の表面粗さに改善されます。
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 電子ビームはエネルギー密度を任意に制御することができるので、溶接をはじめとして、穴あけ、表面改質など様々な加工が可能です。さらに制御性にすぐれ、長時間安定したビームが得られるので、自動化にも適しています。今後もいろいろな分野で部品加工のコスト低減に寄与していくことでしょう。

 多田電機/平本 誠剛

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