フレッシュマン講座

溶接材料編2010

 Q 溶接材料の選定の仕方を教えてください
 A 最も身近な接合法である接着剤でも、木材用、プラスチック用、紙用、写真用、ゴム用など接着する材料に適した多くの種類があるように溶接材料も溶接する材質、すなわち母材に合せて最適なものを選定することが重要です。溶接が適用できる材料には軟鋼、高張力鋼、低合金耐熱鋼、ステンレス鋼などの鉄鋼材料、さらにアルミニウム、チタンなど多くの種類があります。
 溶接金属を含む溶接部は基本的に母材と同等以上の性能が要求されます。このため溶接材料は、母材に合わせてJISに示すように整備されています。また、新しい鋼材が開発されると、それに合う溶接材料が開発されます。さらに溶接材料が汎用に使用されるようになるとJISとして規格化されます。現在、溶接材料のJISは国際規格ISOとの整合性を図るため全面的な見直し作業が進められています。
 溶接材料を選定する前段階としては、製作物の大きさ、板厚、溶接姿勢、溶接長さや工場の溶接設備などにより、溶接方法が決まってきます。各溶接方法に使用する溶接材料を選定するには、溶接する母材の強度、化学成分を鉄鋼のJISあるいは鋼材のミルシートなどにより明確にすることが重要です。鋼材が分かれば、それに合わせて溶接材料の規格は容易に選定できます。
 しかし、表1の溶接材料のJISは基本的な機械的性質、化学成分が分類規定されているだけです。多くの場合実際に発注、納入などで目にするのは溶接材料メーカーの銘柄名です。
 特に軟鋼や490N/平方ミリメートル級高張力鋼用溶接材料は、同じ規格の同じ種類であっても多くの銘柄があります。またその特徴に大きな違いがありますので、各メーカーのカタログなどにより用途、特徴、使用上の注意点などを充分確認して選定します。
 そこで、以下の質問では一例として神戸製鋼の銘柄名を〔〕で紹介します。

 Q 被覆アーク溶接棒の種類とその使い方について教えてください
 A 最も基本的な溶接法である被覆アーク溶接に用いられる溶接棒は、心線と呼ばれる鉄線の周りに原料粉末と固着剤としての水ガラスを混練、均一な厚さに塗布し乾燥して作ります。
 被覆アーク溶接棒には、多くの種類がありますが、大別すると低水素系とその他の系統に区分できます。低水素系溶接棒は、原料として炭酸石灰を多量に配合しています。これがアーク熱で分解、炭酸ガスを発生し、アークを大気より保護し、溶接金属への窒素や酸素の侵入を防ぎます。(この作用を「シールドする」と言います)
 その他の系統の溶接棒は、主に澱粉やセルロースといった有機物の分解ガスによりシールドします。この分解ガスには溶接部の低温割れの原因となる水素を含みます。
 炭酸石灰の分解温度は有機物と比べはるかに高い温度のため高温での乾燥が可能となり溶接部の低温割れの原因の一つである「拡散性水素量」を下げることができます。一方、分解温度が高いことがスタートでのシールド性が悪くなるという欠点となり、スタートでは後戻り法などのスタートの気孔欠陥防止対策を行う必要ができます。
 低温割れの危険のないオーステナイト系ステンレス棒を除き、強度が高く溶接部の低温割れの危険のある高張力鋼、低合金耐熱鋼、低温用鋼などの溶接棒はこの低水素系となっています。低温割れの危険の少ない軟鋼の場合も板厚が20ミリを超える場合は低水素系の溶接棒を使用します。
 軟鋼の被覆アーク溶接棒の代表的な種類の特徴は以下のとおりです。また同一のJISの種類でも銘柄によりいろいろな特徴の違いがあります。溶接材料メーカーのカタログなどで確認することが重要です。
 (1)ライムチタニア系=E4303(旧JIS:D4303)
 被覆剤に高酸化チタンを約30%、炭酸石灰などの塩基性物質を約20%含んだ溶接棒で、日本で最も多く使用されています。耐ブローホール性以外は、イルミナイト系とほぼ同等の性能を有します。溶込みはイルミナイト系より浅くスラグは流動性に富み、剥離も容易です。すみ肉溶接でビードの伸びがよい〔Zー44〕と、立向姿勢が特にやりやい〔TBー24〕などがあります。
 (2)高酸化チタン系=E4313(旧JIS:D4313)
 被覆剤に酸化チタンを約35%含んだ溶接棒で、主として使いやすさに重点を置いた溶接棒です。
 溶込みが浅く、スパッタが少なく、美しい光沢のあるビードが得られます。溶接金属の延性、じん性が他の系統より劣るため主として薄板の溶接に使用されます。化粧盛に適した〔Bー33〕、立向下進溶接のやりやすい〔RBー26〕などがあります。
 (3)低水素系=E4316(旧JIS:D4316)
 前述のように被覆材に有機物を含まず、高温乾燥により溶接金属中の水素量を低く抑えている。厚板や拘束の大きな溶接に適しています。鉄粉を添加して能率を向上させた〔LBー26〕、全姿勢での溶接性に優れJIS評価試験用としても定評のある〔LBー47〕、片面溶接の1パス目に使用する裏波溶接用の〔LBー52U〕などがあります。
 (4)イルミナイト系=E4319(旧JIS:D4301)
 被覆剤中に約30%のイルミナイトという鉱物を含んだ溶接棒であり日本で開発され、広く使われています。アークはやや強く、溶込みは深くスラグは流動性に富み、全姿勢で良好な作業性を有します。
 また、低水素系以外では、X線性能、耐割れ性は最も優れています。溶接作業性を重視した〔Bー10〕、X線性能など性能を重視した〔Bー17〕、中間的な〔Bー14〕などがあります。

 Q 炭酸ガスアーク溶接に使用されるフラックス入りワイヤの使い方について教えてください 
 A 炭酸ガスアーク溶接に使用するワイヤは大きく分けて『ソリッドワイヤ』と『フラックス入りワイヤ』の2種類があります。ソリッドワイヤは全体が金属だけでできているワイヤです。
 フラックス入りワイヤは、フラックスを金属の皮で包んだもので、心線の回りに被覆剤のある被覆アーク溶接棒とは、まったく逆の構成となります。被覆アーク溶接棒と同様、フラックスの配合をいろいろ変えることにより特徴の異なるいろいろなワイヤを作ることができます。
 フラックス入りワイヤは、被覆アーク溶接棒と同様に多くの種類があります。軟鋼・490N/平方ミリメートル級高張力鋼用を大別するとJISZ3313 T49J0T1ー1CAーU(旧JIS:YFWーC50DR)に分類されるルチール系とT49J0T1ー0CAーU(旧JIS:YFWーC50DM)に分類されるメタル系の二つです。
 ルチール系には、高電流での全姿勢溶接が可能な〔DWーZ100〕、水平すみ肉溶接でビードの波のきれいな〔DWーZ110〕、立向き上進溶接がやりやすい〔DWー100V〕、大脚長の溶接が可能な〔DWー50BF〕などがあります。
 メタル系には塗装された鋼板で穴の開きにくい〔MXーZ200〕、さらに使用範囲を薄板側に広げた〔MXーZ210〕、薄板で溶落ちのしにくい〔MXー100T〕、厚板で高能率の〔MXーZ100〕、さらに溶け込みを深くしたタイプの〔MXー101〕があります。
 構造物の種類、板厚、姿勢、鋼板の表面状態など使用条件と要求性能により最も適したワイヤを選択することが、溶接部の健全性、溶接能率・コストの両面から非常に重要です。

 Q マグ溶接用ソリッドワイヤに銅メッキをしていないワイヤがありますが、その特徴を教えてください
 A 従来からマグ溶接用ソリッドワイヤには、通電性と送給性を確保するためには、銅メッキが必要なものと考えられていました。しかし2000年頃開発されたメッキなしワイヤ〔SEワイヤ〕は、銅メッキの代わりに特殊表面処理を施しそれまでにない送給の安定性とメッキ屑によるトラブル解消を可能にしました。
 これは、銅メッキワイヤは見た目つるつるで均一緻密な表面状態に見えますが、メッキ表面を拡大して観察すると写真1のように鉄の地肌が見え銅のメッキ層が完全に表面を覆ってはいません。
 この不連続な状態が通電抵抗の変化を起こしアークの不安定の原因になります。また銅メッキが送給ローラーやライナーに削られメッキ屑としてチップに蓄積しチップ融着の原因にもなります。
 特に低電流炭酸ガス溶接用の〔SEー50T〕(JISZ3312 YGW12)や混合ガス溶接用〔SEーA50〕(YGW16)はスパッタが少なく適正条件範囲が広い点などが評価され広く使用されています。

写真1 銅めっきワイヤの表面状態

 Q 溶接材料の取扱いについての注意点を教えてください
 A 溶接材料がそれぞれの性能を十分発揮するためには、取り扱いや保管において注意すべき事項があります。まず被覆アーク溶接棒ですが、鉱物などの原料を水ガラスで固着させていますので強い衝撃が加わると被覆剤が脱落し使えなくなってしまいます。
 また被覆剤は吸湿性があるので溶接前に再乾燥が必要です。特に低水素系溶接棒では、「拡散性水素」が低いという性能を発揮するためには必ず再乾燥が必要です。一方、必要以上の温度や時間で乾燥するとガス発生剤が分解し性能を損なう危険があります。再乾燥には、各溶接材料メーカーカタログなどで銘柄ごとに推奨乾燥条件を確認して再乾燥してください。
 炭酸ガスアーク溶接のワイヤの場合、ワイヤを巻いているスプールは合成樹脂で作られています。衝撃に弱く投げたり落としたりするとスプールが変形しワイヤが食い込んでしまったり、スプールが割れてしまいます。取り扱いには十分注意してください。
 溶接材料は、雨や雪などのかからない屋内に保管し、床に直に置くのではなく木製パレットの上に積みます。また湿気が高い場所や潮風など錆の発生しやすい場所は避けるようにしてください。

 神鋼溶接サービス溶接研修センター/信田 誠一

お勧めの書籍