フレッシュマン講座

中・厚板溶接編2010

 
 Q 中・厚板について教えてください
 A 現在、我々の周りには様々な形をした「鉄」が存在しています。その中で、板の形で圧延された鋼を「鋼板」と呼び、中・厚板とは、この鋼板を板厚別に区分した呼び名です。厳密な規定はありませんが、一般的に、3・2ミリを超えて25ミリ以下を中板、25ミリを超えるものが厚板と呼ばれています。
 この中・厚板は、工業分野に広く利用されており、主な利用分野としては、造船、橋梁、建築、産業機械、各種プラント設備が挙げられ、目をみはるような大きな構造物に利用されるという特徴があります。
 これらは、単一の板厚で構成されることは非常に希なケースであり、様々な板厚により構成され、殆どが溶接によって組み立てられています。
 半面、薄板は自動車や住宅用の軽量鉄骨、家庭器具など、我々の身近に使われるものが多い特徴があります。これらに挙げた薄板、中板、厚板いずれも、それぞれの使用目的に応じて選択できるように強度、靱性、化学成分などが規格化されています。
 これら規格については、もう少し詳しく示します。中・厚板の種類としては、その使用用途(建築用、造船用、橋梁用など)、品質(強度、靱性、化学成分)、製造方法(熱処理など)に応じて、大変多くの種類が存在します。
 今後も、鋼板の製造技術の進歩、構造物の多様化、設計や施工技術の進歩により、様々な種類の鋼板が生まれてくると思われます。
 この鋼材の規格としては、この様に国内外を含めて多種多様ですが、各産業分野において指定された規格材を選択することが基本です。日本国内では代表的な規格として、日本工業規格(JIS)や、造船部門では、日本海事協会(NK)などの各種船級規格材があります。
 一般的に使用頻度の多いJIS規格材としては、主に引張強さが400〜590Mpaクラスの軟鋼・高張力鋼が各種溶接構造物に使用されています。その種類としては、SS材(一般構造物用)、SM材(溶接構造物用)、SN材(建築構造用)、SMA材(溶接構造用耐候性材)が代表的な鋼種として挙げられ、それぞれ呼び名の後に、引張強さを表す数字や、特性を表す記号が記載されています(例SM490)
 これらの鋼種は、一概に「溶接性が良い」とされ、溶接を考慮した鋼材の設計となっています。しかし、S××C(機械構造用)などに示される中・高炭素鋼(例S45C)は、「難溶接材」と呼ばれ、溶接の際には、予熱を行うなどの注意が必要です。また、ごくまれに化学成分規制の緩いSS材でも溶接性が良くない場合もありますので注意が必要です。
 建築構造用であるSN鋼では、例えばSN490Cと示されるように末尾に「C」が付くものがあります。これは鋼材に含まれる不純物元素である硫黄の含有量を0・008%以下と厳しく制限したものであり、非金属介在物が起点となり発生する溶接欠陥のラメアテア(十字継手、T継手、角継手などの板厚方向に引張応力を受ける溶接継手で鋼板表面に平行な割れが発生する現象)を防止する狙いがあります。

 Q 鋼材の溶接性について教えてください
 A 溶接性とは「母材の材質が溶接に適しているか」の程度を示しています。例えば、溶接の際に予熱が不要または予熱温度が下げられることや、溶接部近傍の熱影響を受けた部分(HAZと呼びます)でも性能の劣化が少ないものを溶接性が良いと言います。
 逆に溶接性が悪いとは、どういうことでしょうか。例えば、一般的に高強度鋼板の厚板は、その性能を持たせるために軟鋼よりも多くの化学成分が含まれています。これを溶接すると、急熱急冷の影響を受けた母材の部分が硬化しますが、この度合いは鋼材の化学成分により左右されます。この硬化の影響、それに伴う延性、靱性の低下が起こり、母材または溶接金属に割れ(低温割れ、遅れ割れとも呼びます)が発生することがあります。
 これは、硬さと拘束力と拡散性水素量の三つが重なった場合に発生するもので、溶接後数時間が経過した後でも発生します。硬化の度合いを左右する化学成分の値から割れ感受性組成(Pcm)として評価することができ、すなわち鋼材の高強度化はPcmが高くなってしまい、溶接性が悪くなってくると言えます。
 しかしながら、船舶や建築鉄骨においては、「TMCP鋼」と呼ばれる鋼材があり、「熱加工制御法」と呼ばれる高度な圧延技術によって少ない合金成分(Pcmが低い)でも強度、靱性、溶接性を両立させた大変優れたものであり、予熱無しでの施工や高能率化が可能となっています。他にも色々な鋼材がありますので、規格書やミルシートなどをよく確認し、その性質や溶接性を確認しておくことが重要です。

 Q 中・厚板溶接の特徴について教えてください
 A 組立て精度に対して裕度があり、接合の信頼性が高いことから溶接は広く利用されていますが、中・厚板を用いて重要構造物を製作するときは、鋼材や溶接材料の選定を始め、施工方法や検査方法を決めなければなりません。
 実施工に関しては、薄板では、開先を取らずに板同士を突合せた形や重ね合せた形でのシングルパス溶接の適用が多いですが、中・厚板では、通常マルチパス(多層)での溶接が一般的です。当然ながら破損事故防止のために内部品質が重視されますので、アーク熱を利用した溶融溶接を行うことで信頼度の高い溶接継手が得られます。
 溶接法別では、被覆アーク、ガスシールドアーク、サブマージアークと呼ばれる溶接法が適用され、アーク熱により溶融された溶接材料を開先と呼ばれる溝に溶かし込み、母材を同時に溶融させ固まることで鋼材同士をつなぎ合わせます。アーク溶接以外では、エレクトロスラグ溶接と呼ばれる方法もあり、建築用ボックス柱の製造に用いられます。
 市販の溶接材料は、主にこれら溶接法に用いられ、溶接欠陥が無い健全性と引張強さ、靱性などの機械的性質、また溶接のやりやすさが材料選択のポイントとなります。
 図1に溶接継手の断面写真と模式図を示します。溶接金属は鋳造組織からなりますが、その材料設計により延性、靱性を持たせています。しかし溶接した近傍の母材では高温に曝されますので元来の圧延組織が消滅し粗大組織となります。この粗大化の程度は溶接部に与えた熱量(入熱)と共に増加します。軟鋼などでは引張強さや靱性が低下することがあるので、許容範囲を超えた過大な入熱で溶接を行うと、所定の性能が得られない恐れがあります。
 しかしながら現在ではこの様な問題に対し、結晶粒の粗大化を微細な酸化物で抑制する微細化技術を活用した鋼材が開発されています。最近では建築向けにHAZ靱性改善を図った「高HAZ靱性鋼」と呼ばれる大入熱対応の鋼板とこれに適応した溶接材料が実用化されています。
 さらに溶接では歪みや残留応力を伴いますので、中・厚板溶接では思いがけない脆性破壊が生じる恐れがありますので、特に材質や溶接施工条件には十分な注意が必要です。

図1 溶接断面の組織と模式図

 Q 中・厚板向け溶接材料について教えてください
 A 各分野で主流となっているのは、ガスシールドアーク溶接材料(ソリッドワイヤ、フラックス入りワイヤなどのマグ溶接ワイヤ)と思われます。
 また、サブマージアーク溶接材料および被覆アーク溶接棒が使用されていますが、最近では、溶接の高能率化、自動化が進むにつれて、マグ溶接ワイヤが普及し、溶接棒の需要は減少しつつあります。表1に各溶接法の適用性を示します。
 (1)ソリッドワイヤ=シールドガスによってCO2ガス用と混合ガス用に大別されます。主に建築鉄骨の需要が多く、能率を重視した大電流・CO2ガス用のJIS規格YGW11対応の「YMー26」や、高入熱・高パス間温度対応のYGW18「YMー55C」などのチタン入りワイヤが主流です。
 (2)フラックス入りワイヤ=ビード外観が良く、姿勢溶接性が優れていることから、造船や橋梁で多用されています。ワイヤの断面形状から、継ぎ目のない「シームレスタイプ」、継ぎ目のある「かしめタイプ」があり、シームレスタイプには、耐吸湿性に優れ、拡散性水素量を非常に低く抑えることができる特徴があります。
 また、ワイヤ中のフラックスのタイプで使用用途が異なっています。主な種類としては、全姿勢溶接用にはチタニヤ系(シームレスタイプのSFー1、かしめタイプのFCー1)、造船分野で用いられるプライマー塗装鋼板には、耐ピット性に優れたすみ肉専用のメタル系ワイヤ(シームレスタイプのSMー1F、かしめタイプのFCMー1F)が適しています。
 (3)サブマージアーク溶接材料=太径ワイヤや多電極を用いた大電流での溶接で、専用の装置が必要となりますが、最も高能率な溶接ができます。優れた溶接品質が得られることから、厚板の突合せや、すみ肉溶接に適用され、圧力容器、建築・橋梁分野で使用されます。フラックスには、溶融型(例:YFー15)とボンド型(例:NBー55E)があり、ボンド型は、フラックスから合金成分を加えることができるので、高張力鋼や合金鋼の溶接に適します。
 (4)被覆アーク溶接棒=最も多くの鋼種に対応した溶接材料です。厚板や高張力鋼の仮付、本溶接には、割れ防止や性能確保の点から低水素系の溶接棒(例:Lー55、仮付用TWー50)が用いられます。
 (5)立向自動溶接法=専用の高能率溶接法として、鉄粉を多く含有させたフラックス入りワイヤを用いたエレクトロガスアーク溶接(エレガス溶接)や、溶融スラグの抵抗熱を利用したエレクトロスラグ溶接(エレスラ溶接)が、造船、建築鉄骨、タンクなどで用いられます。
 普通鋼を中心に記載していますが、このほかにはステンレス鋼、高合金鋼、非鉄金属など、溶接は非常に多くの種類がありますので、様々な溶接の専門書も参考にされることをお勧めいたします。

表1 主な溶接法の適用性質一覧


 日鐵住金溶接工業品質管理部技術サービスグループ/高橋 将

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