フレッシュマン講座

マグ溶接編/2010

 Q アーク溶接はどのような仕組み(原理)で行われますか。またマグ溶接とはどのような方法ですか
 A アーク溶接は、電気を帯びた二つの電極が接触する時に生じる火花(アーク)を連続的に維持させ、そのアークから発生する熱を利用して金属を溶かし溶融接合させる方法です。アークの温度は図1の通り1万度以上になり、鉄(融点=約1540度)などの金属を溶かす熱量を得ることができます。
 アークを維持するための手段としては、図1のように融点の高い材料(タングステンなど)を電極にしてアークを発生させる方法と、連続して送られてくるワイヤを電極とし、その溶ける量(溶融量)とアークの強さ(電流)をバランスさせてアークを維持する方法があります。マグ溶接は後者の方法でワイヤをモータで送給しワイヤ先端でアークを出しその熱で溶接を行うものです。
 また、アークで溶けた溶融金属部は非常に活性な状態にあり酸化や窒化など空気と反応しやすいため、それを防ぐ必要があります。その手段として、空気と溶融金属の間を遮蔽するために炭酸ガスやアルゴンガスをシールドガスとして流します。このガスに炭酸ガスまたは炭酸ガスとアルゴンガスの混合ガス(20%炭酸ガス+80%アルゴンガスの組み合わせが多い)を用いた溶接法のことをマグ(MAG=MetalActiveGas)溶接と呼びます。なお、100%炭酸ガスを使用する場合を特に区別して炭酸ガスアーク溶接と呼んでいます。
 このように、マグ溶接を行うためには図2のように、(1)アークを安定に維持させるワイヤ(2)空気から溶融金属を遮蔽する炭酸ガスなどのシールドガス(3)アークを発生させる電源(溶接機)などが必要です。

図1 アークの温度



図2 マグ溶接法

 Q 溶接に炭酸ガスが用いられている理由は何ですか。またアルゴン混合ガスで使用する場合との違いは何ですか
 A アークで溶けている溶融金属を空気から遮蔽するために炭酸ガスを用いる理由は、(1)比較的安価で入手しやすいガス(2)アークで溶けたワイヤと非溶接材と炭酸ガスの間で起こる化学反応を活用し、良い溶接金属を得ることができるという二つの理由からです。
 アークで溶けている溶融金属の中では、図3のように炭酸ガスを用いることによって発生する酸化反応をワイヤの中に含まれているシリコンやマンガンとの反応で取り除き(還元反応)、目的とする溶接を行うことができます。つまり、炭酸ガスはワイヤとの適切な組み合わせによりアーク溶接が可能です。
 また、マグ溶接においてはシールドガスの種類により溶接の状態が少し異なります。100%炭酸ガスの場合と20%炭酸ガス+80%アルゴンガスの混合ガスの違いを表1に示します。一般的に薄板や仕上がり外観が重視されるような箇所を中心にアルゴンとの混合ガスが使用されます。


図3 溶融金属の化学反応


表1 アルゴン混合ガスの特徴

 Q 溶接用のワイヤは、銅褐色の色をしていますがなぜですか
 A 溶接ワイヤが銅褐色をしているのは、その表面に銅のメッキが行われているからです。銅メッキの理由は、(1)ワイヤが錆びることを防ぐ(2)ワイヤ(銅メッキ)とチップ(銅合金製)の接触を良くし溶接電流をスムースに供給(給電)させるためです。もしワイヤが錆びていたら溶融金属の中に不純物が入り込み溶接欠陥が発生し、またチップとの接触が悪かったら電流の流れが悪くなりアークが不安定になります。溶接ワイヤの錆びや汚れは溶接の品質に悪影響を与えますので日常のワイヤ管理はとても大切です。
 溶接ワイヤは表2のように「ソリッドワイヤ」と「フラックス入りワイヤ」に大別されます。フラックス入りワイヤとは、ワイヤの中にフラックスが内蔵されたもので、これは溶接金属の成分調整を目的としているほか仕上がり外観の綺麗さや難溶接姿勢(縦向き溶接など)への適応などの効果もあります。このソリッドワイヤとフラックス入りワイヤの主な比較は表2に示す通りです。
 このようにワイヤは溶接する材料や用途・使用電流などで使い分ける必要があり、JISに規格があります。その太さはφ1・2ミリを中心にφ0・6ミリからφ2・0ミリ程度が多く用いられ、大きさはリールに巻かれた20キロのワイヤが多く、溶接ロボットなどの自動溶接では200キロ以上のパックワイヤも使用されます。
 なお、最近はワイヤ表面に銅メッキがされていないワイヤも使用されていますが、これはメッキをしなくても十分な防錆対策とチップへの給電も配慮した特殊な表面処理がされているワイヤです。


表2 ワイヤの比較

 Q 溶接の時、スパッタが発生しますがなぜですか。減らす手段はありますか
 A この問いに関しては、後でも解説しますが、スパッタ発生の一因は、ワイヤが溶けて溶滴となり溶接部へ移行する時、溶融金属から一部溶けた金属が飛び跳ねている状態です。これは池の中(溶融金属)に石(溶滴)を投げ入れた時に池から発生する水しぶき(スパッタ)のイメージです。
 実際の溶接時における溶滴移行は表3に示すような形態があり、このうちスプレー移行はアルゴンガス80%以上かつ電流の高い条件の時の移行で、溶滴はとても小さく、発生するスパッタも非常に少ない状態が得られます(池に砂のような小石を投げ入れた時の水しぶきのイメージ)。
 次のグロビュール移行は、100%炭酸ガスシールドで比較的電流の高い領域の溶滴で、大きな粒となって移行しスパッタの発生も多くなります(池に大きな石を投げ入れた時の水しぶきのイメージ)。短絡移行とは、電流の低い時にワイヤ先端がアークと小さな短絡を繰り返しながら溶滴が移行していくもので、スパッタは発生しますが小粒のスパッタに限られます(池の表面を棒で突いている時の水しぶきのイメージ)
 このようにスパッタの発生は溶滴の大きさや移行形態に影響を受けるので、スパッタ低減のためには、溶滴の移行をコントロールする必要があります。最近の溶接機はその制御がマイコンの利用などで非常に高速化されているため、後述するようにスパッタの少ない溶接が可能になっています。


表3 ワイヤの溶滴移行

 Q 溶接に使用する電気の大きさ(電流・電圧)はどの程度ですか
 A アーク溶接はワイヤを溶すために大きな電流を必要とします。ワイヤのサイズにより使用する電流は異なりますがφ0・6ミリで40〜100A、φ1・6ミリで200〜500A程度です。一般家庭の日常生活で使用される電流は最大30A程度ですから、アーク溶接に使用される電流がいかに大きなものかが理解できると思います。
 実際の鉄板の溶接で使用する電流は、2ミリtの場合は2100A程度で4ミリtの場合は200A前後です(電流の値は、継手の形状や溶接速度で大きく異なります)。
 一方、電圧はアークの長さを安定に保つために15〜30V程度で使用し、例えば150Aでは17〜22V程度の範囲でアークの状態で調整し使用します。また、溶接機を設置するときに必要な電力設備は定格350Aの溶接機で1台当たり20KVA前後です。

 Q 溶接機の仕組みはどうなっていますか。溶接作業を行うためにはどのような機器が必要ですか
 A アークを発生させるための溶接機は、工場のAC200Vの電圧を溶接機に必要な最大70V程度の電圧に降圧させる必要があるので、その基本は電力用変圧器と同じです。ただ、変圧器の電気は交流であるため溶接を行なう場合にはアークが安定しにくいので直流に変換する整流回路が必要です。また溶接はいろいろな電流で使用するので電流調整回路も必要です。
 溶接機は、こうした機能を盛り込んだ機器となっていて、その内部は複雑な電子回路で構成され、図4ー(1)のようなサイリスタ制御方式や図4ー(2)のインバータ制御方式と呼ばれる溶接機が用いられます。アーク溶接を行うためには溶接機のほかに図5のようなワイヤ送給装置、リモートボックス、溶接トーチ、ガスボンベ、ガス流量調整器、溶接ワイヤなどが必要です。

図4 溶接機の制御方式

 Q 最近使用されているデジタル溶接機とはどのような溶接機ですか
 A 溶接機の制御方式は、図4のサイリスタ制御の溶接機からインバータ制御の溶接機に変化していき、現在は写真1のようなデジタル制御の溶接機が使用されています。
 インバータ制御溶接機はサイリスタ制御の溶接機に比べ、(1)溶接機の小型軽量化(2)スパッタ発生の減少などの機能向上が図られ、デジタル溶接機はインバータ溶接機の制御方式をデジタル化することで、さらに(1)小型軽量化(350Aタイプでサイリスタ機の約100キロからデジタル機は約30キロへ)(2)スパッタの減少(サイリスタ機の約50%減)(3)アークスタート性の向上(4)アーク安定性・溶接条件裕度の拡大など大きく進化しています。
 特にスパッタの低減に関しては、スパッタ発生はアークと短絡が繰り返される溶接現象において、短絡状態からアークに変化する瞬間に多く発生するので、デジタル電源ではその瞬間の電流を制御してスパッタの発生を抑えています(図6)
 またアルゴン80%の混合ガスにおいては、電流の高い領域でスプレー移行となりスパッタはほぼ発生しないのに、中電流域ではスプレー移行にならず、図7のようなパルス電流を利用して高い電流の時に溶滴を小さくして移行させるパルス溶接が使用されていますが、今まではパルス波形が一定であったため、その効果も限られていました。
 しかしデジタル電源では、このパルス波形を任意の形に作ることができるので従来のパルス溶接以上に、より低スパッタ化・アークの安定化など最適溶接条件の適用範囲が広がっています。(サイリスタ溶接機でも一部のパルス溶接は可能です)

写真1 デジタル溶接機


図6 スパッタ低減の制御


図7 パルス溶接

 Q 溶接作業を行うには資格が必要ですか
 A アーク溶接作業は特に資格が必要ではありません。誰でも溶接作業を行うことはできますが、「労働安全衛生規則」の中で「安全衛生特別教育」を受講することが義務つけられています。この講習は「学科11時間、実技10時間」の計21時間が必要です。
 アーク溶接作業は、高温の金属を扱い、アークという強力な光線のもと、ヒュームやスパッタの発生する環境下での作業となりますので、安全に対する十分な配慮を行なわなければなりません。
 一方、溶接の技能に関する資格に関しては、JISの規格が広く運用されています。詳しくはJIS Z 3841などにありますが、板厚や溶接姿勢でいろいろな種類があり、現在国内では毎年約10万人以上の方が更新を含めて受験されています。
 この取り扱いは、日本溶接協会で行われています。溶接作業は品質確認が非常に難しい作業のためにISO 9000では溶接結果の記録を要求されますが、その中に溶接作業者の資格も記録として残す必要があり、最近は特に重視される傾向にあります。
       ◇
 溶接作業は、製造工程の中で非常に重要な役割を担当しますが、あまり目立ない作業のためその存在は軽視されがちです。しかし、溶接の仕事は非常に大事で「ものつくり」の根幹を支える工程として製造・保守には欠くことのできない作業です。
 溶接は、全ての製造工程で、いつの時代でも、どこにいても必要とされる仕事です。今後、溶接に関心と興味を持つ人が増えるのを期待しています。

 ダイヘンテクノス/黒田 進

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