フレッシュマン講座

溶接治具機械編2011

 アーク溶接施工をしようとする場合、最低限、溶接電源・溶接材料・シールドガスなどを用意すれば行なえる。しかし、溶接品質の維持や作業効率を考えると溶接機以外に、どうしても溶接治具などの周辺機器装置と組み合わせ、システム化することが必要となる。
 近年では溶接ロボットが機能面、コスト面においてとても導入しやすくなり、あらゆる業種で使われている。しかし、溶接ロボットを使用する場合でも、被溶接物(ワーク)を固定するセット治具やワークの位置決めを行なうポジショナー、溶接ロボットの稼動範囲を拡大させるスライドベースなどを組み合わせ、システムとして自動化を行なう必要がある。
 周辺機器装置には、ワークを反転させる回転装置や、溶接ヘッドを移動させる直動装置、溶接トーチを保持し狙い位置が微調整できるトーチスタンド、溶接機と治具機械を連動させ、簡単に自動溶接システムが構築できる溶接連動制御装置などがある。
 さらに、より品質の向上に役立つ溶接トーチ自動開先追跡装置や、溶接トーチを左右に振幅させ、溶け込み不良を防止しビード形状・外観の改善、スパッタの減少などに役立つウィービング装置などが用意されている。
 周辺機器装置を組み合わせシステム化することにより、溶接作業の容易化、能率向上、仕上がり精度や品質の向上が図られるなどの効果が得られ、特に多量生産化には必要不可欠なものである。
 溶接をシステム化する場合、効率とコスト、品質の向上、それから安全性について、バランスよく考えなければならない。高効率・高品質を目指すあまり、自動溶接装置のイニシャルコストやランニングコストが高くなっては、導入する意味がなくなってしまう。
 また、安全性を軽視すれば作業事故につながるおそれがあり、ひいては効率化にも影響する。特にロボットシステムにおいて、安全性は最重視しなければならない。
 溶接をシステム化するための周辺機器装置として、汎用的な製品を表1にまとめたが、その中で、代表的なものをいくつか紹介する。

 表1 主な溶接治具機械

 ◇ポジショナー(写真1)
 主に、パイプとパイプ、パイプとフランジなどの円周溶接や、位置決めなどに使用する。ワークは、専用チャックなどでターンテーブル上に固定する。テーブルの回転、傾斜機能を備えており、溶接姿勢を任意に設定することができる。例えば、パイプとフランジの円周溶接の場合、ターンテーブルを傾斜させることにより、溶接するうえで最適とされる下向き溶接姿勢が得られる。
 ポジショナーには様々な機種があるので、ワーク形状や溶接条件、搭載重量、重心偏心や重心高さなどを考慮して最適なものを選択する。また、ポジショナーは溶接開始・停止、位置認識などの信号を取るためのリミットスイッチやカウンタを付加するといった若干の改造で、自動円周溶接に使用できる。
 さらにワークの位置決め用としては、昇降機能がプラスされたEV3軸ポジショナーも製作されており、複雑な形状や溶接個所がたくさんあるワークでも、溶接技能者が最適な溶接姿勢で作業が行なえる。また、ティーチング位置決め機能を附加すれば、あらかじめ作業順序どおりにテーブルの停止位置を設定・記憶させ、1ステップボタンを押すごとに作業位置を再生させることができ、作業効率が大幅にアップする。

 写真1 ポジショナー

 ◇ターニングロール(写真2)
 タンクやパイプ、大型円周加工物の溶接、切断、塗装などの作業に使用する。一般に、駆動台1台、従動台1台からなり、それぞれにローラが2個付いている。ワークをローラの上に乗せ、ローラとワークの摩擦によりワークを回転させ、円周溶接や位置決めなどを行なう。
 システム化の例としては、直線装置のマニプレーターなどと組合せてパイプや圧力容器の円周または縦継溶接を行なうパイプ円周/縦継自動溶接装置などがある。
 

 写真2 ターニングロール

 ◇マニプレーター(写真3)
 マニプレーターは、「ブーム」の先端に、溶接用ヘッドおよび溶接用トーチを搭載し、ブームが上下昇降および前後移動することによって、溶接部に対しての正確な位置決めを行なうものである。
 また、ブームの前後移動による直線溶接にも使用する。このため、マニプレーターには、機械的強度、特にブーム先端で作用する力に対しての剛性が求められる。そこで、剛性、安定性、直進性がよく、構造的にバランスの良いセンターブーム(2本のコラム〈柱〉の間でブームを保持する)方式のマニプレーターを選択することが望まれる。
 
 写真3 マニプレーター

◇薄板・パイプ突合せ溶接装置「エアークランプシーマ」(写真4)
 エアークランプシーマは、長尺の薄板直線突き合わせ溶接に使用したり、パイプを作るために薄い板をベンディングロールなどで曲げたあと、縦継ぎ溶接を行なうために用いられる。
 薄板の溶接では、溶接の熱影響でワークが波打つ(縦収縮による挫屈変形)ことがある。エアークランプシーマを使用するとそれらのことが最小限に抑えられるともに、ほとんどの場合仮付けなどの手間が省け、簡単な操作で良好な溶接結果が得られる。
 最近では溶接機を内蔵し、タッチパネル操作で溶接長さ、溶接電流、溶接速度および各タイマを数値制御にて設定し、その数値を各JOB番号に記憶させその番号を呼び出すことにより、誰でも同じ品質の溶接作業が容易に行なえる新しいタイプが開発されており、自動溶接のシステム化に貢献している。

 写真4 エアークランプシーマ

 ◇汎用直線溶接ロボット(写真5)
 直線の自動溶接に必要なスライダ部と制御装置のみの標準構成で、取り付けベースや自作の治具などと組み合わせて容易に直線の自動溶接が行なえるもので、いわゆる溶接システムのひとつのパーツともいえるスライダーロボットである。
 JOB登録機能やタック溶接機能、溶接開始位置教示機能など、多くの特徴を備えており、高品質・高能率な直線溶接が簡単に実現できる。また、低価格設定により、コスト面においても安心して導入できる。

 写真5 汎用直線溶接ロボット

 ◇溶接走行台車
 溶接走行台車には、大きく分けてレール上を走行するものと、レールを使用せず立板や開先を倣いながら自走するものの2種類がある。
 自走するタイプのうち、特に普及しているのが、すみ肉溶接用走行台車(写真6)である。これは、立板を倣いながら走行するもので、主に造船や橋梁の補強リブ(ロンジやスティフナという名前で呼ばれている)を溶接する場合に使用される。溶接開始後、自動的に終了するので作業者は一人で複数台の走行台車を使用でき、作業能率が大幅に向上する。

 写真6 すみ肉溶接用走行台車

 ◇トーチスタンド
 トーチスタンドは作業者の手の代わりに溶接トーチを保持するもので、先端には溶接線の狙い位置を微調整するマウントや、溶接トーチをクランプするトーチホルダなどが装備されている。
 溶接トーチを安定して保持するため、振れがなく均一な溶接ビードが得られ、また正確な位置決めと繰り返し作業により、製品精度の向上と量産化が図れる。
 ◇溶接連動制御システム
 回転装置などの周辺機器と溶接機の信号を集結し、溶接開始や終了、オーバーラップやクレータ処理、各種溶接条件などを連動して自動化するための制御装置である。
 種類としては、周辺機器側の検出方式としてタイマ式、リミットスイッチ式、カウンタ式などがあり、用途に応じて最適な物を選択する。
 この溶接連動制御システムを使用してシステム化する代表的なものに、ポジショナーと溶接チャック、トーチスタンドを組み合わせた小物円周自動溶接装置があり、簡単に自動溶接が行なえ短納期・ローコストで導入できる。また、ポジショナーは単体としても使用できるので、用途がさらに広がる。
 ◇ペールパックワイヤ送給補助装置
 溶接ロボットなどを利用したシステムにおいて、作業効率を考え、20キロ巻リールの溶接ワイヤを使用せず、200〜250キロ入りのペールパックワイヤを使用するケースがある。
 この装置は、主にペールパックワイヤ使用時においてワイヤ送給時、フレキシブルコンジットケーブル内の摩擦により発生する送給抵抗を軽減し、安定したワイヤの送給を実現することにより、アークスタートミスとアーク切れを防止することを目的としたもので、特に装置から離れた場所にペールパックを設置する時に効果を発揮する。
 ◇ロボットシステム及び周辺機器
 ロボットシステムやロボット用周辺機器装置としては、各種ポジショナーやスライドベース、2溶接ステーション化を実現するシャトルテーブルなどがあり、現在ではすでに標準化され種類も多種にわたり用意されている。
 現状、溶接ロボットの外部軸制御により動作するものがほとんどで、溶接ロボットと連動して複雑なワークでも問題なく溶接を実行する。また、通常のアーク溶接よりもさらに停止精度が要求されるレーザ溶接に対応したロボットシステムも増えてきており、板厚の異なった鋼板をレーザ溶接するテーラードブランク溶接工法にも応用され、自動車のボディ鋼板などが製造されている。
 ほかにロボット周辺機器としては、エリアセンサーや安全柵なども設置し、作業安全にも十分配慮する必要がある。

 ◇溶接ヒューム回収装置(写真7)
 近年、溶接作業等においても作業環境の改善が求められ、特に溶接中に発生するヒュームを回収するための、より実用的で確実な対策が必要とされている。
 溶接ヒュームは人体に有害であるばかりではなく、溶接ロボットや周辺機器装置にも悪影響を及ぼす。たとえば、溶接ロボットや自動機のわずかな隙間からヒュームが侵入し可動部分を傷めたり、あるいはワークのセット治具に溜まり、狙い位置がずれ溶接不良を招くといったおそれがある。
 この対策としては、溶接ヒューム回収装置(特に局部吸引タイプ)を導入し、効率よく溶接ヒュームを回収することが最適手段と考えられる。人体にも機械にもよい環境を提供することが、システム化するうえでは重要であると言える。

 写真7 ヒューム回収装置

 以上、周辺機器装置について紹介してきたが、それは、ほんのごく一部でしかない。近年の溶接作業は、複雑化、軽薄化する被溶接物が多く、その形態は、ますます多様化してきている。短納期で容易に、しかも導入コストを抑えることができる溶接システムが望まれる一方、YAGレーザ溶接システムなどにみられるように、非常に高度な位置決め精度が要求される装置も製作されている。
 そのような生産システムを構築するためにも、今後、さらに溶接周辺機器装置の開発とその応用が必要とされる。

 マツモト機械/経営管理部 泉忠

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